【艦これ】大井と一夜を過ごすだけの話
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1: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:52:14.03 ID:NLZLtzJb0

 現在時刻は二三時ちょうど。とっぷりとした夜の闇を一瞬だけ光が照らす。弾けた光の花は、ぱらぱらと音を立て、海へと消えていった。

 スーパーで買ってきたちゃちな代物だ。大袋に入った、2000円程度の。それが十ほどと数だけはたんまりとある。一晩遊んでもなくなりゃしないのに、駆逐や軽巡のガキどもは、我先にと両手で握ってダンスを踊っている。
 楽しそうに笑いながら手を取り合って、次へ、また次へと蝋燭の火へ。
 別に珍しいものでもないだろうに。これが、五尺玉が打ちあがるとでも言うのなら俺だってこぞって参加するが、今更手持ち式の花火ではしゃぐ年齢でもない。

 だが、それでも。たとえ安い、チンケな花火だとて、それで喜んでもらえるならば用意した甲斐があったというものか。
 一度戯れに初めてみたのが大層ウケがよかったものだから、それくらいでご機嫌がとれるのならと、気づけば毎年の恒例行事になってしまっている。特に駆逐のガキどもにとっては、こうやって夜遅くまで遊ぶことそのものが特別な意味合いを持つらしい。なんとも幸せなことだ。



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2: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:52:50.71 ID:NLZLtzJb0

 まぁいい。別にいいじゃないか、それで。俺ははしゃぎまわるガキどもの様子を遠巻きに眺めながら、左手に持っていたビールの空き缶をビニル袋へ放る。そしてもう一本。
 本土の公務員連中などは、それこそ煙草休憩などとろうものなら税金泥棒の大合唱。あまつさえコンビニや自販機で飲み物を買うことさえ問題提起されるのだという。俺にはまったく信じられなかった。
 愚かしい話だ。他人にやたら厳しくしたところで、どうせツケは自分に回ってくる。ほぅら、俺を見ろ。我が泊地を見ろ。この解放感たるや。

以下略 AAS



3: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:53:26.85 ID:NLZLtzJb0


 よくわからん。謎の無言は努めて無視して、俺は少しぬるまってしまったビールを喉へと流し込む。
 視界の中では駆逐たちが線香花火の耐久レースをやっていた。川内型の三人娘を引率につけていたはずだが、いつの間にか川内が消えている。まぁ、じっとしていられん性分なのはわかっているから、さもありなんという具合である。

以下略 AAS



4: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:54:23.79 ID:NLZLtzJb0

 龍驤は部屋の中から伸びてきた何者かの手によって捕らえられ、見えなくなった。ちらりと見えた髪の毛を見るに、雲龍あたりか。
 俺も一応飲み会には誘われていたのだが、固辞させてもらった。酒は好きだが飲み会はそうでもない。第一女所帯に一人だけ混じるというのも、なんというか、落ち着きが悪いものだ。

「……」
以下略 AAS



5: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:55:38.46 ID:NLZLtzJb0

 会話が途切れてしまったのが気まずくて、間を持たせるためにビールを呑む。視界の中ではドラゴン花火が猛烈に火炎を吹き出し、そのまわりをガキどもがはしゃぎながらぐるぐる走り回っている最中。
 背後の食堂もまた騒がしい。どんちゃん騒ぎとはこのことだ。泊地が人里離れた海沿いの建物で心底よかったと思う。

 光源がまた一つ増えた感覚があった。振り返れば、食堂の真上、談話室の灯りが点いている。明石と秋雲、夕張が窓ガラスごしにこちらを見て、目が合うなり手を振ってきた。
以下略 AAS



6: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:56:37.64 ID:NLZLtzJb0

「ありがとう」

「ん?」

以下略 AAS



7: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:57:08.04 ID:NLZLtzJb0

「なんのことだかな」

 なので今度のこれはまさしくすっとぼけ。大井は手のひら返しにも等しい俺の返答を聴いて、小さく溜息をつき、冷めた目で視線を送ってくる。
 何かをさらに言おうとした気配を察知して、俺は缶ビールをもう一本取り出した。空き缶はきちんと捨てて。
以下略 AAS



8: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:58:19.36 ID:NLZLtzJb0




 俺は時計を見る。
以下略 AAS



9: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:58:52.58 ID:NLZLtzJb0

 まったく、なんて心配性か。思い込みが激しすぎる。現実がまるで見えていない。そんなはずないだろう。在り得ない。脳がオカルトに浸食されてしまっている。
 いくら今日が象徴的な日だからといって、全てが幻として消えてしまうはずもなかろうに。
 終戦記念日を過ぎたから、全ての戦いが気づけば終わっているだなんてのは、非論理的にもほどがある。

以下略 AAS



10: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:59:19.71 ID:NLZLtzJb0

 何年前の話だったろう。記憶はもう遥か彼方に飛んで行ってしまっている。酒の席だったか、大規模海戦の時だったか……。

 寝るのが怖いなら起きていればいいのだ。孤独に消え去るのが不安なら、誰かと手をつないだままいればいいのだ。少なくとも、終戦記念日の今日、今夜だけは、俺は誰しもがそうできるようなシステムを作った。
 いや、「システム」だなんてのは大仰だ。俺はただ単に無礼講の日を設けたに過ぎない。その日の夜を仲間と、親しい、愛すべき誰かと過ごすことを選んだのは他ならぬ彼女たち自身。
以下略 AAS



11: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 11:00:19.18 ID:NLZLtzJb0

 時刻は二三時五〇分。ビールは最後の一本、その半分くらい。

 酔いが回ってきている。きもちがいい。潮のにおいが心地よい。
 日付が変わって、誰一人欠けがないことを確認してから、眠るとしよう。
以下略 AAS



12: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 11:00:47.54 ID:NLZLtzJb0

 手と手が触れあう。熱く、しっとりしていた。緊張のためか、汗、手汗が。
 彼女は勇気を出したのだ。ならば、俺も握り返す勇気をもって、その想いに応えるべきだった。
 
 花火は夜通し持つだろう。酒盛りは毎回午前様だ。ゲーム大会だっていつ終わるとも知れない。
以下略 AAS



13: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 11:01:39.37 ID:NLZLtzJb0
―――――――――――――――
おしまい

終戦記念日は特別な日。
兵器が役目を終えてゴミになる、幸せな日。


14:名無しNIPPER[sage]
2020/08/15(土) 15:45:38.59 ID:0Xxw38Kso
おつおつ



15:名無しNIPPER[sage]
2020/08/16(日) 02:13:17.81 ID:/RnWzUxUo

好きな雰囲気だ


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