1: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/11(火) 23:21:36.02 ID:AVuudPRF0
雨降りは嫌だ。湿度が高いのも嫌だ。肌にまとわりつくような暑さは輪をかけて嫌だ。
六月、七月と不快指数は極大で、梅雨明けが報じられたちょうど八月一日、俺は執務室の机に突っ伏して呻いていた。
じりじりと肌を焼く陽の光が嫌だ。
ああ、人間はなんて我儘な生き物なのだろう。あれだけ雨よ降るな、さっさと晴れろと請うていたのに、いざ日差しが降り注げばそれさえもまた嫌になる。
遮光をすれば籠った空気で気分が悪くなるし、調子の悪いクーラーは三十分ごとに理由もわからず作動を止める。なんともまぁうまくいかないことか。修理の依頼はしたものの、この時期はやはり電気屋も繁忙期、即座に対応とはならない。そもそも泊地の備品であるがゆえに、申請してから承認が降りるまでがまたとにかく長い。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/11(火) 23:22:06.13 ID:AVuudPRF0
「……なにやってるの?」
イクがアイスキャンディを齧りながら部屋の入口に立っていた。あれほどノックをしろと――いや、空けっ放しにしていたのは俺だ。空気の通りをよくするために。
溶けたアイスが液体となってぽた、ぽた、廊下に一滴ずつ染みていく。イクは指に、手首に伝ったそれを舌で舐めとった。なんとも扇情的な光景であったが、幸か不幸か頭は茹っている。下半身は反応しない。
3: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/11(火) 23:22:45.67 ID:AVuudPRF0
イクが裸足をぺたぺた鳴らして近寄ってくる。スクール水着。科学の粋を集めて作られた特製仕様。僅かに肌や髪が濡れているようにも見える。シャワーでも浴びていたか、海に潜っていたか。
しゃり。随分と柔らかくなったアイスキャンディの音。少し大きめに噛み砕いた破片を、イクはその口の端に咥えて、首の角度を九十度、俺と合うように傾げた。
少しぽってりとした、厚みのある唇が、アイスキャンディの破片とともに俺の口元へとやってくる。俺は拒まず、寧ろ積極的に受け入れるようにその破片を啄み、偶然を装って彼女の唇を、そしてその奥の舌さえも啄んでみる。
あちらもまた拒まなかった。破片が互いの口のちょうど間で急速に溶けていき、その際に俺たちから熱は奪われているはずなのに、不思議とそんな気はしない。
4: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/11(火) 23:23:13.40 ID:AVuudPRF0
ぷは、と空気の漏れる音がした。それがどちらのものだか不明瞭なままに、俺たちは顔を離す。
アイスキャンディはソーダ味だった。懐かしい味。安っぽい味。すぐに鼻から抜けて消えてなくなるくらいの薄らとした。それよりもよほどイクの芳香が強烈であるくらいには。
10Res/4.85 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20