ハートの融点
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8: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2020/08/09(日) 23:27:28.70 ID:S7yVE8bX0




一切の目的地を告げられないまま、彼の駆る車に揺られること一時間ほど。
私達は海辺にやってきていた。
そこは大きな橋があって、橋の先には島が接続されている。

「江ノ島?」
「あたり!」
「確かに、この辺りならありそうだよね。ハワイアンなやつ」
「だろ?」

手近なコインパーキングに車を停め、車を降りる。
ふんわりと漂う潮の香りに鼻孔をくすぐられ、胸の辺りにわくわくとした感じがこみ上げてきているのを自覚した。

「海も寄る?」
「せっかくだし、うん」
「泳ぐ?」
「んー、泳ぐのはとりあえずいいかな。でも砂浜は歩きたいかも」
「日焼け止めは?」
「ばっちり」
「じゃあサンダルに履き替えちゃいな」
「あ」

忘れてしまった。
あれだけ準備をしたにも関わらず早々に足りないものに気が付くとは。
自分の不甲斐なさに恥じ入りながらプロデューサーに「ごめん。忘れた」と返す。

「いや、積んであるよ。凛のサイズのサンダル」
「え。なんで」
「ほら、ロケなんかで浜辺あるくときに前に用意したのがあるだろ」
「どうしてプロデューサーが持ってるの、ってこと」
「事務所から持ち出しといた」
「またちひろさんに怒られるよ」
「オフレコでお願いします」
「それは、プロデューサーの今日の働き次第かな」

スニーカーと靴下を雑に後部座席に入れて、サンダルに履き替えながら彼にそう言ってやる。
すると彼は「頑張っちゃうぞー!」と腕をぐるぐる回すのだった。

そうして、「三十分で六百円って信じられるか。打ち切りなしで」などと言っているプロデューサーを無視し、私は駐車場を出る。
視界いっぱいに広がる海を見ると、もう駆け出したい気持ちを抑え込むのが限界だった。

「走るよ」
「え、なんで……」
「私が走りたくなったから」
「そういうことならお供しないわけにはいかないか」

せーので駆け出して、アスファルトをサンダルでぺちぺちと鳴らす。
そんな私たちの横を、側面にサーフボードを搭載した自転車がたまに通り抜けていくのがまた風情があった。

そうした人々は一様に水着のまま自転車に乗っていて、場所の雰囲気までもが私の要望どおりハワイアンなやつ、であることに口元が緩む。

隣を走っている彼もそれを察したのか「ハワイアンなやつ、だろ」と言っていて、この男もなかなかやるではないか、と謎の上から目線で評価を下すのだった。



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