10: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2020/08/09(日) 23:29:02.43 ID:S7yVE8bX0
○
「ふー。たべたたべた」
「お腹いっぱいになっちゃったね」
「まだ九時過ぎかぁ」
「ほんとだ。一日長いね」
「次は何したい?」
「んー。じゃあ……歩く!」
私の号令に対し、彼は敬礼のポーズで「了解!」と返す。
そして、すぐに砂浜へと降りる道を見つけると、私を置いて駆け出していった。
「歩くって言ったでしょ!」
その後ろ姿に声を投げつけてやると、わざとらしく肩を落とし、しゅんとした顔を作ってプロデューサーは戻ってきた。
「私より先に砂浜を踏んだらだめだよ」
「なんで」
「なんとなく」
「なるほど」
我ながら理不尽な命令であると思わないではないけれど、それにすんなり従ってしまうプロデューサーにだって問題はあるはずだ。
などと、なぜか彼に責任を転嫁しつつ私は砂浜へと降り立つ。
ずぶずぶと足が沈み込む柔らかな感触をサンダル越しに感じながら、ふらふらと砂の上を歩き回っていると、自然とテンションが上がってきてしまうのだから不思議だ。
「凛、足ちっさいなぁ」
「?」
「ほら、足跡」
「ほんとだね。っていうか、プロデューサーのが大きいんじゃない?」
「普通くらいだと思うけどなあ」
言って、彼はわざと私の足跡を踏んづける。
私の足跡など初めからなかったかのように彼の足跡で上書きされる様を眺めていると、確かに自分の足は小さいのかもしれない、と思わずにはいられなかった。
「凛の足跡ぜんぶ消しちゃお」
「無理でしょ。プロデューサー、体力ないから」
「今日の俺は一味違う」
「はいはい」
そこまで言うのであれば、見せてもらおうではないか。
間髪入れずに私は不規則に砂浜を走り回る。足跡を増やすために、当然歩幅は狭めだ。
「待って! 早い早い早い! 生産スピード落として!」
律儀にも私の足跡をちまちまと消して回っている彼は、笑い声とも悲鳴とも取れるような声色で何やら叫んでいる。
苦しそうであるのに、やめようとはしない彼の姿勢がまたおかしくて、私は始終けたけたと笑っているのだった。
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