高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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50: ◆jsQIWWnULI
2020/08/30(日) 18:56:47.89 ID:s2H4XrND0
「……左手に見えますのが、ヴェネツィア共和国時代に存在した大富豪のうちの一人、ジュゼッペ・ペッシーナのお屋敷です。ジュゼッペ・ペッシーナは14世紀に貿易で財産をなしたペッシーナ家でも特に財を成した方と言われています。彼は植物が好きだったようで、今でもこのお屋敷の裏庭には季節ごとに違った花が顔をのぞかせてくれています。今の時期ですと、ピンクやオレンジといった可愛い色合いの花びらを持つヒャクニチソウなんかが咲いていて、とっても綺麗ですよ」

何とか記憶から情報を手繰り寄せ、言葉にする。水先案内人は、ネオ・ヴェネツィアのガイド役も担う。ガイドは、いかにこのネオ・ヴェネツィアが素敵な場所であるかを、少しでもお客様に知ってもらうための機会だ。だから、しっかりと出来るようにしておかなければならない。

ガイドの練習は、あずきちゃんやあやめちゃんと一緒の合同練習の時にはあまりできない項目だ。なぜならその情報が本当に正しいのかどうか、恥ずかしながら確信を持つことができないからだ。バリバリ現役で活躍している水先案内人であるアイさんにガイドの練習を見てもらうのが、ガイドの上達には一番だと私は思う。

「うんうん。だいぶ様になって来たんじゃないかな」

アイさんは私の案内を聞いて、そう言った。

「だけど、もうちょっと肩肘張らずに言えるようになった方が良いかもね。それと、自分なりのおススメポイントなんかも紹介できるようになると、もっと良いかも。ゴンドラに乗るお客様の多くは、ガイドブックやガイドサイトには載ってない情報を知りたいと思ってるから」

「自分なりのおススメポイントですか……」

「そう。そしてそのおススメポイントを見つけるためには、自分で実際にその場所に行ってみて、いろいろなことを感じる必要があるよね」

「はい」

「だから、今のうちにネオ・ヴェネツィアの色々な場所に行っておくと良いよ。それで、藍子ちゃん自身が、もっともっとネオ・ヴェネツィアのことを好きになってくれたら、アタシは嬉しいなぁ」

アイさんはそう言うと、私の方に振り返って笑った。

確かにアイさんの言う通りだ。最近の練習では、決まったルートしか通らなくなってきているし、ネオ・ヴェネツィアにときめくことも少なくなってきているかもしれない。

何よりもまず、ネオ・ヴェネツィアを好きになること。好きになることは、好きになった相手をもっと知りたいと思うことだ。例えば、普段何気なく生活しているだけでは見えてこないネオ・ヴェネツィアの素顔だったり、ほんのちょっとしか見せてくれない裏の顔だったり。そんな一面を見つけることができたら、ネオ・ヴェネツィアのことがもっと好きになるかもしれない。

「いい所でしょう?ネオ・ヴェネツィア。私、ネオ・ヴェネツィアが大好きなんです!」

ふと、そんな言葉が脳裏によみがえった。おぼろげな記憶に見えるのは、やはりピンク色の髪の毛をした、もみあげに房のある笑顔の素敵な女性の姿だった。

「さ、気を取り直して出発出発!」

そんなアイさんの言葉で我に返った。

「は、はい」

私はゴンドラを再び漕ぎ始める。


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