162: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/30(日) 20:45:30.53 ID:GOi8ToA6O
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「……限りなく黒だな」
エストラーダ邸を出るなり、ランパードさんが口を開いた。
「あのアミュレットと、もう一つドレスか何か。どちらも『遺物』だろう。どんな代物かは分からないが、それでファリスはクドラクになっているっぽいな」
「でも、どうしてそんなことを?それに、あの子が人殺しをするなんて、とても……」
ランパードさんが立ち止まり、エストラーダ邸を見た。2階の彼女の部屋に、人影は見えない。
「そこは分からねえが……実は、クドラクは『2代目』なんだよ」
「え?」
「今から18年前にも、モリブスの要人が次々暗殺される事件があった。3年ぐらいそんなことが続いてな。誰が言い始めたか、その暗殺者は『幽鬼クドラク』と呼ばれるようになった。
犯行の頻度は今のより遥かに少なかったが、手口は酷似してた。俺がモリブスにいるのは、そういう背景もある」
「……まさか」
「さっきの会話で確信した。『初代』はファリスの母親だ。自殺した理由は分からねえが、前のクドラクが消えた時期とはほぼ重なる。
母親の遺志を継いだ、というのは考えすぎかもしれねえが……エストラーダの口振りからして、母親については何か知っていそうだな」
そうだったのか。しかし……どうすればいいのだろう?
私の中に、恐ろしい考えが浮かんだ。
「ひょっとして、施術をわざと失敗して……」
「いや、限りなく黒だがそれはやらないしやれねえ。医術士として、治すものは治す。それが誇りだからな。
ただ施術をするなら、白だと確信した時だ。殺すために治すほど意味のないことはねえよ」
「ならこのまま放置、ですか?」
「それも被害が増えるだけだろうな。悩ましいのは、施術日を決めた場合ファリスが動く可能性があることだ。
『施術するしかない』とか言ってたが、施術中に死ぬ可能性は考えるはずだ。施術日前になったら、確実にクドラクは現れる。もしファリスがクドラクなら、な」
「でも、このまま黙っているわけにもいかないですよね……」
ランパードさんが頷いた。
「一番手堅いのは、施術日を告げた上でその前に動いた所を叩くってことだな。ただ、そのためには対策が欲しい。
『遺物』の性質が分かりゃやりようもあるんだが……」
どこかに「遺物」に詳しい人がいればいいのだけど。
……ひょっとして、あの人なら。
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