魔王と魔法使いと失われた記憶
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128: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/21(金) 20:45:51.26 ID:GUtbYzIjO
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「じゃ、再会を祝して……って何だよその仏頂面は」

「俺が喜ぶと思うのか?貴様は。エルフは信用ならんと言ったはずだ」

リンゴジュースが入ったグラスを片手に魔王が言う。お酒は飲めないらしい。

「でもあのボッタクリ店で大損こかずに済んだだろ?素直に感謝しとけよ」

ニヤリとランパードさんが笑う。私は自分の服を見た。

緑色の簡素だけど上品さがあるドレスだ。身体の輪郭が見えにくい、ゆったりとした意匠なのもいい。
何でも、肌触りのいいトリス綿で作られているらしい。モリブスでも上流階級御用達の店なのだそうだ。値段はそこそこしたけど、10万も行っていない。

「……ふん」

「まあいいや。じゃ、乾杯と行くか」

チン、と私とランパードさんのグラスが触れた。魔王も渋々グラスを合わせる。
私は金色の液体を喉に流し込んだ。炭酸の刺激と喉越しが心地いい。

「ぷはあっ!!やっぱ暑いモリブスにはモリブスエールだな!!これに辛い料理がまた合うんだわ」

ランパードさんは鶏のスパイス焼きを頬張った。

「……で、お前さんたちは何でモリブスに残ってるんだ?てっきり先に行ってるものだと思ってたが」

「……白々しい」

「いや、マジで知らねえんだよ。お前さんたちの監視は確かに任務のうちだが、四六時中見てるわけでもねえ。ぶっちゃけ、今日会ったのはマジで偶然だ」

一気にランパードさんがグラスを飲み干す。

「ま、お前さんたちがここにいるってことについちゃ、言えねえ理由もあるんだろうがな」

「……『幽鬼クドラク』について、知ってるんですか」

私が言うと、ランパードさんは驚いたように目を見開いた。

「……お前さんたちも絡んでるんか。早速狙われたとかか?」

「いえ。でも私たちもそいつを追ってるんです。何か、御存知なんですか」

「……お前さん、何か知ってるな」

魔王とランパードさんとの間に、不穏な空気が流れる。

「……知っていたら何だと言うんだ」

「いや、繰り返すが俺はお前さんたちの協力者だ。少なくともこの件については利害が一致している。
だから取引だ。そっちが情報を出せば、俺もそれに見合った何かをする」

「等価交換か。狡猾なエルフらしい」

「情よりも理だぜ。そうでないとこの稼業はできねえ。で、どうなんだ」

魔王はしばし黙り込んだ。私から言った方がいいだろうか。

「……えっと、私はそうは思ってないんですけど……彼は、ある人を疑ってるみたいなんです」

「……!!誰だそいつは」

チッ、と魔王が舌打ちした。

「余計なことを……」

「でも、このままじゃ何もできないでしょ?ランパードさんなら、打開策があるかもしれないじゃない」

「手出ししにくい相手か」

魔王が溜め息をつき、小声で言った。

「……ファリス・エストラーダだ。恐らくは『遺物』持ちだ。ロペス・エストラーダなら、遺物を持っていても不思議じゃないからな。
姿を消す効果がある代物だ。ひょっとしたら、肉体増強の効果もあるかもしれない」

「エストラーダの娘か!確かに俺もその可能性はまず考えたが、肉体的にあり得ねえと思ってたぜ」

「だが、遺物を使っているならあり得なくはない。夜間にしか犯行を行えないのも、家を抜け出す機会が警備が手薄な夜しかないからだ。
闇に紛れ、遺物の力で逃走する。そして、父の政敵を次々襲う。……一般人も殺しているのは理屈が分からないが」


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