樋口円香「──誠意を見せていただきましょうか」
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2:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:34:25.18 ID:YkNVrYJ6o
──プルル。
「はい、283プロダクションです──ああ、美城のプロデューサーさん! 先日は大変お世話になりました。ええ、おかげさまで、あの企画は好評でしたよ。さすがの手腕でしたね。はい、はい。わかりました、社長にも伝えておきます。ええ、それでは。はい、はい。失礼します」
3:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:34:56.50 ID:YkNVrYJ6o
今日は事務所にはづきさんがいない。修行の旅に出ていったのがつい先日の出来事。大陸を中心に巡ると言っていたが、事前に聞いたスケジュールから察するに今頃は恐らくモンゴルあたりだろうか。『パワーアップして帰ってきた私を、楽しみにしてくださいね〜』と旅立つ前に言っていたが、これ以上パワーアップすると本当に超人にでもなってしまうんじゃないか、と手つかずの作業の山に、思わされてしまう。
いくら片付けても終わりが見えない。自身の仕事に、普段任せっぱなしになってしまっているはづきさんが担当してくれる仕事。はづきさんが普段事務作業をやってくれることにどれだけ助けられているかを実感している。
『あいつは超人だからな……いなくなるとよくわかる』
4:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:35:25.23 ID:YkNVrYJ6o
『円香ちゃん、き、今日のレッスンすごかったね……!』
『……アイドルって、簡単だと思ってたけど。あんなことまでさせられるなんて』
5:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:35:53.65 ID:YkNVrYJ6o
キーボードを打鍵していると、外から賑やかで仲の良い声が聞こえてきた。
そうか、もうそんな時間か。モニターに表示された時間を見ても間違いはない。窓から差し込む陽の色は赤くなっていた。
──ガチャン。
6:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:36:25.63 ID:YkNVrYJ6o
「おつかれさま、小糸。それにみんなも、レッスンおつかれさま」
「うん、おつかれさま。プロデューサーは疲れてるね」
7:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:36:53.47 ID:YkNVrYJ6o
雛菜が近寄ってきたと思うと、片腕にしがみつきながら、上目遣いに何かを主張してくる。
しばらく困って、周囲に視線を向けると、円香は冷たい目で見ているし、透はいつも通り。小糸だけが困った様子を察したのか、「ひ、雛菜ちゃん!」と呼びかけていたが、雛菜は離れる様子も、何かを求める素振りもやめはしなかった。
ど、どうしたらいいんだ?
8:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:37:26.25 ID:YkNVrYJ6o
「あ、ああ……そうか。そういうことか。うん、おつかれさま。今日もよく頑張ったな、雛菜」
「あはぁ〜〜♡ うんうん〜雛菜頑張ったよ〜」
9:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:37:53.52 ID:YkNVrYJ6o
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10:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:38:22.85 ID:YkNVrYJ6o
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このあいだから、円香がおかしい。何がどうおかしいのかと言われると具体的にこうだ、と言えるわけではないのだが、なんというか、おかしい。元気がないわけではない。かと言って逆に元気過ぎるわけでもない。表面的にはいつもの樋口円香だ。余計な対応をすればすげなくあしらわれ、冷たい目で見られる。
11:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:38:51.25 ID:YkNVrYJ6o
ヒュッと背筋が伸びる。そこでようやく意識が思考の内側から外側へと戻ってきた。事務所の入口には今まさに考えていた樋口円香が立っていた。円香は「ふぅ」、と呆れたように溜め息を吐きだしてから、「仕方ない人」、と呟きながらソファに腰を掛けた。ふわりと隣から甘ったるい匂いが届いた。
それから左肩にふわふわの赤みを帯びた毛髪と、ほんの少しの体重がかかる。「もたれているわけではないです、少し置いているだけです。勘違いしないでください」、と円香が睨みを効かせてくるので、きっとそのとおりなんだろう。
「ああ、少し休憩し過ぎていたよ。ありがとう、円香」
12:名無しNIPPER[sage]
2020/08/02(日) 22:39:18.22 ID:YkNVrYJ6o
「それだけですか」
「それだけって?」
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