9:名無しNIPPER[saga]
2020/07/12(日) 21:12:10.80 ID:qe4+sBJv0
突如さっと太陽を横切る黄色い影が現れた。
威厳を持って地に降り立ったそれは、「天使」と呼ぶにふさわしい姿形をしている。
きょろきょろと辺りを見渡すと、凛と澄んだ声で呼びかける。
「ヨハネ!ヨハネはどこにいるのデース!」
突如木々ががさがさと揺れ、慌てふためくようにヨハネは駆け込んでくる。
「来るなら前もって連絡してよ、マリー!何でいきなり来るのよ!」
「私は前もって連絡していたわ。あなたが便りを読んでいないだけよ。」
得意気に彼女が指差した先には、枝に小さく括り付けられた文があった。
「あんなの、わかるわけないじゃない!」
憤慨するヨハネに対して、マリーと呼ばれた女性はどこ吹く風といった感じで聞き流す。
「まあまあ、こうして会えたんだし……それにしても」
一呼吸おいて目を閉じたマリーは大きく深呼吸する。
「本当にここの森の空気は美味しいわね。動物植物もとても幸せそうなのが、空から見てるだけで理解できるわ。」
満足げな表情のマリーはヨハネをみて微笑む。
「あなたが森を愛し、愛されている何よりの証拠ね。素敵な場所だわ。」
「この間まで私と同じ地位だったくせに、急に上から目線になるわね……」
「直属の上司に向かって、そんな口をきいていいの?」
意地悪そうな笑みを浮かべるマリーを見て、ヨハネは大きなため息を一つつく。
「そういえば、ヨハネ。」
ふと、風向きががらりと変わる。
先ほどまで射し込んでいた日光は厚い雲に覆われていた。
仄暗くなった森の中でマリーの瞳が黄金色に妖しく煌めいている。
木々は囂々とまるでヨハネに対して牙を剝いているかのようだ。
おどろおどろしいマリーの雰囲気に、思わずヨハネは気圧され、生唾を飲み込んだ。
「さっき、あなたに会う前に一匹のシカを見かけたわ。怪我をしていた。けれど、その傷の治り方に少し違和感を覚えたわ。」
ヨハネはその場で硬直したかのように、その場から一歩も動けなかった。
「私が何を言いたいのかはわかるわよね、ヨハネ。あなた、また手を加えたわね。この森の生態系に。」
木々はマリーの怒りを表しているかの如く騒めき、枝は音を立てて撓っていた。
森は闇夜かと錯覚するぐらい陰の境界を無くし、ヨハネとマリーを包み込む。
「気持ちはわかるわ。それがあなたの優しさなのも理解してる。でもね、自然界には寿命があるの。理があるの。運命があるの。それにあなたが手を出すことはどこかに綻びを生じさせるの。あなたにその埋め合わせができるのかしら?」
マリーの言葉一つ一つが、ヨハネに突き刺さる。
「生き物の生命力が視える私達の役割を理解しなさい。感情を排してこその天使なのよ。」
マリーはそこまで告げると、さっと目の色を変える。
黄金色の瞳はいつもの柔らかな目線に戻り、いつの間にか太陽を覆っていた分厚い雲は何処かへと千切れ飛んでいる。
「ま、あなたはよくやっていると思うわ。そこは自信持っていいわ。」
ちょっとやりすぎちゃったわね、と呟きながら、彼女はヨハネに微笑みかけた。
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