8:名無しNIPPER[saga]
2020/07/12(日) 21:11:23.41 ID:qe4+sBJv0
それから数日が経った。
ヨハネの微かな疑問には平穏な日常が降り積もっていく。
幹の上から山を俯瞰し、華美に虫を惹きつける花々を眺め、最近子供を産んだ狼に微笑む日常が。
彼女が通ると、獣道の植物は嬉しさに朝露を震わせ、獣は鼻を鳴らして頭を垂れる。
「あら?」
いつものように森のパトロールをするヨハネの目の前には足を怪我した鹿が震えていた。
おそらく、崖から足を滑らせてしまったのだろう。
徐々に親鹿の生命力が減っていくのが視える。
この鹿がここで死ぬことは明白だ。
近くで不安げに鼻を鳴らす小鹿も同様の運命を辿るのは明白だった。
「ちょっと待ってなさいよ。」
ヨハネはゆっくりと近寄ると、生々しい傷跡にそっと手をかざす──。
ヨハネの手が輝くと、不思議なことに鹿の傷跡がみるみるうちに塞がっていく。
よろよろと立ち上がった鹿は元通りになった足で森の奥に消えていった。
「次は気をつけなさいよ。」
──支配者。その言葉がぴったりな佇まい。
この山の種々雑多な生き物たちを統べる支配者──。
ヨハネはそういう存在なのだ。
一息ついて帰ろうとしたその時。
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