男「大将! 油マシマシのアチアチラーメン一丁」
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1: ◆CItYBDS.l2[saga]
2020/07/05(日) 08:59:02.72 ID:sGoLw9kr0
 S字カーブの続く険しい山道を超えると、突然開けた駐車場が見えてくる。そこにたどり着くまでの酷い道とは対照的に、その駐車場は綺麗に整備されていた。駐車場の奥には、竹林が生い茂っており、まるでモーゼが通ったかのように竹林の一部が割れ小径を作っている。小径を進むと、誰もがその存在を感じられずにはいられない独特なとんこつ臭が漂ってきた。さあ、ここまで来ればもうゴールは目の前だ。

 「ラーメン 雷来軒」

 知る人ぞ知る、とんこつラーメンの名店である。

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2:名無しNIPPER[saga]
2020/07/05(日) 08:59:43.06 ID:sGoLw9kr0
??
 
 時刻は午前9時。とてもラーメンを食べるような時間ではないが、店内には既にラーメンの臭いが充満している。寸胴鍋はコポコポと煮えたぎり、白い湯気をもうもうとあげている。高く伸びた孟宗竹に日の光が遮られているせいで、店内はどこか薄暗い。僅かな間接照明に照らされるのは、黒檀の調度品。とてもラーメン屋の店内とは思えない程の優雅な空間の一角、白い霞にまみれたカウンター席で、店主が一杯のラーメンを前に手をあわせていた。

 店主の前に置かれたるは、雷来軒唯一のメニュー「こってりラーメン」。スープは、一見するとチャーシューと同化してしまいそうなほど濃ゆい赤銅色で、その濃厚さを体現するかのようにトロミを帯びている。含まれる油分は如何ほどの物かとても想像が及ばない。麺は中太のちぢれ麺で、その濃厚なスープとよく絡み、店主の「スープを味わえ」という強い意志が伺える。付け合わせは、メンマに白髪ねぎ、チャーシュー、そして燻製たまご。オーソドックスな組み合わせではあるが、いずれも店主がこのラーメンの為に作った自身の品である。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER[saga]
2020/07/05(日) 09:00:35.50 ID:sGoLw9kr0

 店主は、天を仰ぎ呟く。その様は、まるで神に祈る信仰者のようだ。否、現実に店主は神に祈っていた。その胸に抱く神は、「ラーメン神」。(八百万もいるのだから、そのような神が一柱がいてもおかしくなかろう)「今日も最高のラーメンが出来ていますように」と、心の底から神に祈るのだ。

 「ごちそうさまでした」

以下略 AAS



4:名無しNIPPER[saga]
2020/07/05(日) 09:01:03.14 ID:sGoLw9kr0
??

 とある日のこと。その日の店主は、いつにもまして上機嫌であった。なぜなら、つい昨晩、雷来軒の「こってりラーメン」は大幅なアップデートを果たしたからだ。旨味は増し、より複雑に絡み合った食材はそれぞれの宿した味を十二分に発揮している。完成したばかりのスープは、どこか神々しくすら思えるほどだ。

 だが、どんなに浮足立った一日であろうと店主がルーティーンを怠ることはない。今日も店主は、完成したレシピをもとに朝九時の一杯目のラーメン作りにとりかかっていた。ご機嫌な鼻歌と共にスープを煮立たせる。さあ、時間を無駄にしてはいられない同時進行でトッピングの準備だ。ネギの土を落とし薄く細く切っていく。トントントンと包丁の音が店内に心地よく響く。その音はまるで、拍子木を打ち鳴らしたもののようであった。しかし、拍子木だけではちと寂しい。店主が、「これに鼓でも合わさったら更に良いのだが」なんてしょうもないことを考えていると、ふと一人の常連客のことが脳裏をよぎるのであった。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[saga]
2020/07/05(日) 09:01:31.00 ID:sGoLw9kr0

 大タヌキは、雷来軒の常連中の常連、その来店する頻度と言ったら店主についで多いほどの猛者である。あだ名の由来からもわかるように、かなりの巨漢でそのプヨプヨとしたお腹を手のひらで打てば、それこそ鼓顔負けで「ポンッ」と良い音が鳴るであろう。大タヌキのタヌキっぷりは、それだけにとどまらない。日にコンガリとやけた肌はタヌキの毛色によく似たものであるし、落ちくぼんだ目に影ができているその愛らしい様はまさにタヌキそのものだ。

 大タヌキは、店に来ると必ず「こってりラーメン」を大盛りで頼んだ。通常のどんぶりの倍はある大盛りの、そのカロリー量は厚生労働省が提唱する成人男性の一日の摂取カロリーをゆうに超す。そのうえ、大タヌキは替え玉までも頼むのだから驚きだ。かつてタヌキと称された徳川家康は、タイの天婦羅にあたって死んだとされるが、きっとこの大タヌキもラーメンにあたって死んでしまうのではないかと店主が気に病むほどの大食らいであった。

以下略 AAS



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