7:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 17:43:43.94 ID:n4MKx+790
なんだか、神様に祈る牧師さんみたいだと、そんなことを思っていたのかもしれない。
クリスマスになると現れる、サンタさんの格好をしたおじさんと、片手に聖書を抱えて何だかよくわからない話をする牧師さん。
言ってることは、小さい頃の私たちでも理解できるようにとても簡単に噛み砕かれたものだったけれど、そんなありがたい言葉より、礼拝が終わった後にサンタさん役をしているおじさんがくれるパラソルチョコより、かくあれかし、と言い換えられる一言を唱えて何かを真剣に祈っている牧師さんの顔が、私にとっては印象的だった。
多分こんな事を街角で宣ったなら、今でも怒られる気がするけれど。
きっと牧師のおじさんは、あの時の私と同じような気持ちだったのかもしれない。
声が途切れて、歌が締めくくられたのだとわかると同時に、あの時の私は不遜にもそんなことを考えていたのだ。
『あはは、聴いてくれてありがとうございますっ』
多分そのひとにとっては、何の気もない鼻歌とか、そんなつもりだったのだろう。
少しだけ恥ずかしそうに頬を染めながら、そのひとはぺこりと小さく頭を下げる。
だけど、飴玉で出来た鈴を鳴らしたみたいなそのひとの声が聞こえたときに周りを見れば、集まっていたのは果たして、私だけじゃなかった。
遊具に集まってヒーローごっこをしていた男の子たちも、井戸端会議に花を咲かせていたおばさんたちも、電話越しに何やら誤り続けていたサラリーマンも、砂場でおままごとをしていたお隣の子も。
通り過ぎていく風とか車とか、そういうものを除けば、公園にある全ての音がなくなっていた。そのひとの、砂糖菓子みたいに甘くて、宝石みたいに綺麗な声以外の全部が消えてしまったみたいに、公園は静まりかえっていた。
二曲目を歌うつもりはないのだろう。そのままベンチに座り込んで、何かを思い出したみたいに宙を眺めているそのひとを見て、皆はまるで最初から歌も、そのひともいなかったみたいに、元の場所へと戻っていく。
サラリーマンの人が右手に持っていた空のペットボトルがゴミ箱にぶつかって、がたん、と無機質な音を立てる。
きたないな、と、そう思った。普段なら気にすることもないはずなのに、あの歌を聴いた後だと、それ以外の全部が汚く聞こえてしまうぐらいに、澄んだ、綺麗な歌声だった。
57Res/91.81 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20