十時愛梨「それが、愛でしょう」
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43:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:20:18.04 ID:n4MKx+790
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 果たして十時愛梨が歌手路線一本で行く、という僕の掲げた博打は無謀の一言で一蹴されるかと思いきや、すんなりと社内を通ってくれた。
 それは皆が皆、僕と愛梨の決めたことに賛同してくれた、なんて都合のいい話じゃないことぐらいはわかっている。
 愛梨が積み重ねてきた功績が道理を蹴っ飛ばして無理を通せるほどのものだったというものもあるし、愛梨自身、デビューから随分と経っていて、かつてボーダーラインとされていた、路線の転換か或いは引退かを迫られる年齢に近くなったのもある。
 だから、会社としても最後に花道を添えてくれるぐらいの感覚だったのだろう。

 そこに何か憤りを感じなかったはずはない。愛梨は紛れもなく初代シンデレラガールとしてスターダムを駆け上がったアイドルなのだ。だったら、その花道を誰もが羨むぐらいに、見ている人間の目が潰れかねないぐらいに豪奢なものに仕立て上げてやろうじゃないか。
 あの夜から二年間は、ずっとその一心で、初めて入社した頃に戻ったように方々をかけずり回っていたように思う。
 そしてその結果は今、僕の目の前に現れている。

 今はまだ微かにざわめいているだけだけれど、愛梨が舞台に登った瞬間に、五万五千の歓声が、そして会場の外から何十万の歓声が万雷のように彼女へ降り注ぐのだ。
 それは全て、愛梨の歌声が成し遂げたことだ。
 歌手路線一本で行くと決めたとき、世間の反応は決して好意的なものじゃなかったことは覚えている。とときら学園の司会が交代すると訊いて、わざわざツイスタにファンをやめることを公言したアカウントだって何個あったか数え切れない。
 それでも、愛梨の歌は彼女を見放した人間を、それまで見向きもしなかった人間を、何となくその辺を歩いて街頭ビジョンを見上げただけの人間を。老若男女を問わずその首根っこをひっつかんで、振り向かせてみせたのだ。


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