十時愛梨「それが、愛でしょう」
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40:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:17:26.52 ID:n4MKx+790
『……プロデューサーさん』
『……愛梨』
『もう、遅いかもしれないですけど』

 泣きたいときに泣いていいですか、つらいことがあったら、弱音を吐いていいですか。それは、迷惑じゃないですか。
 愛梨はそう問いかける。きっと、天海春香に問いかけたのと、同じことを。

『迷惑なんかじゃ、ないさ』

 そしてきっと、遅くもないさ。
 天海春香がどう答えたのかなんて想像できない。それでも同じような言葉を愛梨に返したのだろう。
 だったら、僕はせめて同じだけの慈しみを、同じだけの優しさを愛梨に返せているのだろうか。途中で詰まりながらも、ありったけの想いを込めて、僕は言葉を返す。

『……私、プロデューサーさんのことが大好きです』

 だから、嘘をついちゃったんです。泣いてるところを、見せたくなかったんです。
 ぽろぽろと大粒の涙を零しながら、言葉を詰まらせながら、愛梨は言った。
 きっとどこにでもある些細なすれ違いだ。大好きだと、そう言われることが嬉しくないはずもない。だけど、そう言われるほどに信じてくれているなら、もう少しだけでも頼ってほしかった。
 そう思ってしまったことは確かだけれど、愛梨はそれと正反対のことを考えていたのだろう。

『……僕も、愛梨のことが大好きだ』

 そこに嘘はない。全部が全部本当のことだ。全身全霊をかけて、この命を天秤に乗せろと言われたって躊躇いなくそうできるぐらいに、きっとこの世に存在する全ての意味で、僕は愛梨のことが好きだった。アイドルとして、人間として、そして。
 バックミラーに映る愛梨の顔は、この数年で始めてみるぐらいくしゃくしゃに歪んでいた。そしてきっと、愛梨の目に映る僕も、同じように顔をくしゃくしゃに歪めていたのだと思う。
 だけど、笑っていた。お互いに、前に進んだことを示し合わせるように、ずっとぐるぐると回り続けていた場所から抜け出せたんだとばかりに、僕たちは進まない渋滞の中で二人だけ、笑いあっていた。


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