十時愛梨「それが、愛でしょう」
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39:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:16:42.33 ID:n4MKx+790
『……私、色んな人に支えられてここまで来たことはわかってます』

 あんまり頭は良くないですし、天然ですけど。愛梨はそう謙遜したけれど、それをちゃんと理解している時点で十分に、十分すぎるほどに彼女は聡明だ。

『だから、ずっと……泣いちゃダメだって、そう思ってたんです』

 ダメダメな自分を支えるために頑張ってくれる人がいる。そんな自分を見捨てずにいてくれる人たちの前で弱音を吐くのは、その人たちに失礼だから。
 愛梨が零した言葉は、紛れもない呪いだった。自分の心を縛り付けて、いいことだけを拾い上げて生きていけと、決して悲しんではならないと、それがどれだけ過酷なものであるかは、愚かで鈍い、僕にだって想像できた。

 いつだって、正しくありたかった。
 子供の頃からずっと、そんなことを考えていた気がする。テレビの中に出てくるヒーローになりたいといつも思っていて、それが虚構で、サンタクロースの正体は父親だと理解できるようになっても、この世界のどこかには絶対的な正しさがあって、それに忠実に生きていくことがいいことで、そこから外れるのは悪いことだと、そう思いながら、生きてきた。
 だけど、それがどうだ。誰かのためだと、正しいことだと自分に言い聞かせて偽りながら、すぐそばにいるたった一人の女の子の悲しみにだって寄り添えない。

 これのどこが、正しいんだ。いったい僕の行いのどこに、正しさがあったというんだ。
 鼻の辺りに滲む熱と塩辛さを止める術は、もう持ち合わせていなかった。
 一人の女の子が、今日の今日までそんな呪いを背負いながら生き続けてきた。それを僕は、今になるまでずっと、見落とし続けていたのだ。
 大の大人だというのに僕はただ、すまなかったと、そう繰り返しながら、涙を流すことしか出来なかった。見落としてきた、見過ごして、通り過ぎて、そして見なかったことにしてきた悲しみのために、祈ることぐらいしか、できなかった。


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