38:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:15:39.91 ID:n4MKx+790
『死んじゃいたいとか、いなくなっちゃいたいとか、そんなことを考えたことは一度もないんです』
『…………』
恐らくそれは本当だろう。そこまで思い詰めた感情を抱えて、そしてそれを誤魔化しながら生きていれば、五年以上もアイドルとしてやっていくことは不可能に近い。
テレビが映し出す華やかなイメージとは裏腹に、アイドルは過酷な職業だ。理不尽と出会うことだって数知れないし、だからこそそんな時にアイドルを守れるように、いざとなったらいつでも彼女たちの代わりに腹を切れるように、僕たちが、プロデューサーが、マネージャーが、そしてそれより上の役職に飾られた人間がいるのだ。
『……でも、ちょっと悲しいとか、ちょっと苦しいとか、つらいとか。そういうことはいっぱいありました』
ごめんなさい、プロデューサーさん。それが私のついてきた嘘です。
愛梨は、まるで罪を告白するかのように微かに目を伏せて、だけどごまかすことなく、言葉の一つ一つを噛み締めるように、はっきりとそう言った。
そうだろうね、とは、言えなかった。
当たり前としてそういうことがあると理解していても、僕はそういう愛梨に降り積もった悲しさや苦しみを、見抜くことができなかった。
それは致命的な過ちだった。きっと、取り返しのつかないことだった。
今だけは車の列が進まないことに、そして頭の中に思い描く天海春香に感謝をしながら、もう取り戻せない悲しみに涙を零してしまわないように、ぎり、と奥歯をきつく噛み合わせる。
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