32:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:09:53.22 ID:n4MKx+790
『うーん……これって言っていいんでしょうか』
『何か、悪いことでも?』
『そんなんじゃないんですけど』
発売前の新譜を何かのコネを使って事前に入手していました、というのはそれが流通に絡む人間なら当たり前の話だけれど、歌う方で、ましてや競合する他社のアイドルが歌う予定のものを不正に盗み聞きしたとあれば信用に関わる。
愛梨に限ってそんなことはないと信じたい。
その時の僕は、そんな心配を抱いていたはずだ。そもそも、信じたい、という言葉が出てきている時点で、信じ切れていないことにさえ気付けていないほどに、鈍っていた。
じっと、愛梨の目を見ればそこに嘘がないことはすぐにわかる。愛梨は確かに天然で、意図せずに意味ありげなことを言ってしまったりもするけれど、僕が担当としてみてきた数年間で一度も嘘をついたことはなかった。それは確かなことだ。
なら、言えない理由はどこにあるのだろう。
訊こうか迷った一瞬のことだった。
すぅ、と、はっきり、息を吸い込む音が聞こえた。
まるでこれから歌声を作り出すかのように愛梨は息を小さく吸い込んで、何かを決心したように拳を小さく固めて、言ったのだ。
57Res/91.81 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20