十時愛梨「それが、愛でしょう」
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28:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 18:06:00.07 ID:n4MKx+790
 ファンとの交流企画を立てるコンペティションで、海の家を運営して、そのメインスタッフをアイドルに一任するという企画が採用されたのは、丁度それから一年ぐらい経ってのことだった。
 生憎僕の考案した企画ではなかったけれど、それならば他に適役がいるはずもない、と、メンバー選抜において真っ先に白羽の矢が立てられたのが愛梨だったのはきっと用意されたかのような必然だった。

『うーんっ、気持ちいいですねっ。今回は海の家の看板娘ってことで、私、いっぱいいっぱい頑張ろうと思ってたんですっ』

 企画が始動して、休憩時間に裏方で涼んでいた愛梨へ仕事について尋ねたとき、そんな答えが返ってきたことを覚えている。

『だって、憧れだったんですよ? 今までアルバイトとか、あんまりやらせてもらえなかったから、すっごく楽しみでっ。なんで……って、私もよくわからないんですけど、そういうことしようとすると、いっつも周りのお友達に、愛梨ちゃんは座ってるだけでいいから、っていわれちゃって』

 何一つ曇りのない笑顔で、憧れていたことができて満足していると、そう語っていたのを覚えている。ああ、そうだ、忘れられるはずもない。
 実際に、愛梨の仕事は完璧だった。ファンとの交流という一種の危うさも含んでいる企画を、実質的なリーダーとして見事に取り仕切ってみせたし、彼女が注文された飲み物を運んでいるオフショットや、その後に浜辺で撮影した水着グラビアが掲載された雑誌は例によって書店が悲鳴を上げる勢いで売れていったと、流通関係者から苦笑交じりに聞かされたこともある。
 きっとそこに嘘はなかった。愛梨の憧れにも、仕事に対する真剣な姿勢にも、言葉にも。
 だけど、どこかで何かを掛け違えているような、そんな違和感を、どうしても拭えなかったのは。

『……流石、グラビアで天下取っただけのことはあるわ。ああいうのを天才ってんだろうな』

 同じ仕事に参加していた桐生つかさが、そんなことを呟いていた。
 彼女は決して皮肉屋ではない。他人にも自分にも厳しい子で、だからこそその賞賛は本物だったのだろう。愛梨には天賦の美貌がある。そしてグラビア方面での才能だってずば抜けている。
 そこには何の間違いもない。つかさほどの子から賞賛を引き出せたことだって、本当なら誇るべきことのはずだ。


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