十時愛梨「それが、愛でしょう」
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16:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 17:53:45.04 ID:n4MKx+790
2.「それが、愛でしょう」

 中身がこぼれ落ちきった砂時計をひっくり返す。全部が下に落ちるまでには百八十秒、三分かかる小さなものだ。
 それが意味しているのは一つだった。適当なペンケースと割り箸を重し代わりに乗せていた蓋からのけて、カップラーメンの封を切る。

 カップ麺は人類の生み出した三大発明に数えても良いんじゃないかと、僕は公言してはばからないのだけれど、残念ながらそこに賛同が得られたことはない。
 裏方のちょっとした休憩時間でも食べられて、そこそこ美味しい。現にこのカップ麺が国民食と呼べるまでに広がったきっかけだって、緊迫した事件の最中でも、少し空いた時間に手早く食べられてそれなりにカロリーが取れるということが広まったからだと記憶している。
 いつもそうしている通り、無感情に、舌に乗っかったジャンクな味を直接胃袋へと流し込むようにカップ麺を啜っていく。

 休憩時間にはまだ余裕があるけれど、ライブというのは生き物だ。いつ何が起こっても不思議じゃないのだから、可能な限り早く、自由に動ける体勢を整えておくべきなのだ。
 とはいえ、そんなのは理想論だ。
 あ、と、間の抜けた声に遅れて、指の隙間からすっぽ抜けた割り箸が床に落ちる。
 やってしまった。
 幸い給湯室には予備の割り箸が用意されていたから、食べかけの昼飯を泣く泣く流しにぶちまけなければいけなくなるなんて事態は回避できたけれど、我ながら情けない。

 なんでこんな間抜けなことをしてしまったのか。
 考えてみれば、答えにはすぐ行き当たる。緊張しているのだ。
 それも、かつてないぐらいに。
 二つ目の割り箸が、ぱきん、と小気味の良い音を立てて不格好に、二つというよりは一つと半分、もう半分の組み合わせを取るように割れる。
 横向きで割るのは縁を切ることを連想させてしまうので、社会人たるもの割り箸は必ず縦にして割るのがマナーです、なんて聞いたこともないような習慣を得意げに宣っていたのはどこのどいつだったかは生憎思い出せないけれど、それを教わった頃から随分と、時間は遠いところにきてしまった。


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