十時愛梨「それが、愛でしょう」
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10:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 17:46:53.80 ID:n4MKx+790
『……うたうの、すきなんです』

 私は、嘘をついてしまっていた。
 思い出す。泣きじゃくる私の隣に同じ体育座りで腰掛けて、その人はじっと、要領も得なければ、聞き取りやすいものではないし、何より、縁もゆかりもないし、聞く義理も義務もない私の言葉に、とても真剣に、耳を傾けてくれていたことを。

『じゃあ、どうして嫌いになっちゃったのかな』

 魔女なんじゃないかと、そう思い始めたのは多分、そのひとの口からその一言を聞いてからだったと思う。
 咄嗟に尋ねられた恥ずかしさをごまかすために嫌いだと嘘をついたんじゃない。
 子供にありがちなことだ。わざわざ遊園地で開かれるヒーローショーまで足を運んでいるのに、ヒーロー役のスタントマンからインタビューを受けたときに、ヒーローなんて嫌いだ、本当は怪人を応援していたんだ、なんて強がってみせるあまのじゃくなんてそう珍しいものじゃない。
 そんなステレオタイプを捨て去ろうと、じいっと、アーモンド色の瞳が私のそれを覗き込んでいた。大きくて、つぶらで、宝石みたいなそこに映っていたものは、涙を流す私と、きっとその内側にあったものだった。

『……わらわれたから』
『笑われた?』
『……へただって、おんちだって』

 年少組から年中組に上がったときのことだった。
 小さい頃の私は歌うのが大好きで、その時まではずっとテレビにかじりついて、童謡が流れてくる度に勝手なデュエットをしていたと、お母さんから聞かされたことがある。
 多分そんな私がめっきり歌わなくなったことに関して、お母さんは心配していたんだと思う。そして、同時に恐れていたんだと思う。
 今まで好きだったことを捨ててしまうなんて、何かよっぽどのことがあったんじゃないかと心配にならないはずがない。実際、その時の連絡帳には詳細にその日のできごとが記されていたはずだ。


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