8:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 19:44:29.44 ID:fM9nM/xA0
だが、巷を行き交う流行り廃りとは別の話だ。
数年前に業界の中でも全く無名といって差し支えのない事務所が起こした奇跡があった。
765プロダクション。今ではその存在とそこに所属しているアイドルの顔と名前を知らない人間は、この国でもきっと少数派だろうが、数年前はそうじゃなかった。
天海春香をセンターに据えた765プロオールスターズの十三人は瞬く間にスターダムを駆け上がって、第三次アイドル戦国時代の嚆矢となった。これがもし、うちやライバルの最大手が仕掛けたことであったのなら、人々はそれほどの関心を持たず、彼女たちが日高舞の再来と噂されることもなかっただろう。
そして、うちがアイドル部門を設立することも。
それほどまでに、無名の事務所から国民的なアイドルが生まれるというのは異例の事態なのだ。ましてやそれが十三人だ。幸か不幸かその時はまだ学生だったが、そんな事態になればお偉いさんが顔を青ざめさせていたのは想像するに難くない。
だからこそ、資本家は何の躊躇いもなくそれまでノウハウがほとんどなかったアイドル部門に多額の金を投入した。百人以上のアイドルを売り文句にして内部で競い合わせる、プロジェクト・シンデレラガールズの発足だった。
俺がここに勤めるようになったのはプロジェクトが動いてしばらく経ってからのことだったが、十時さんはそのプロジェクトにおける最高のアイドル――百人以上との戦いを勝ち抜いた女王を指す、シンデレラガールの称号を初めて受勲するに至った、紛れもないトップアイドルの一人なのだ。
まあ、だからこそちとせとのマッチアップを組むことにも、企画を通すことにあれこれと奔走しなければいけなかったのだが――それはともかくとして、こうして立ち居振る舞いを見るだけでも、彼女が初代の称号に恥じない存在なのだと理解させられる辺り、やはり本物は格が違う。
「覚えていてくれたんだ」
「はいっ、皆同じ事務所の仲間ですから」
驚くほどあっけらかんと彼女はそう答える。こっちは、少し背筋が震えていたというのに。
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