34:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 20:13:12.43 ID:fM9nM/xA0
いつだって余裕に溢れていた笑顔が、涙に彩られて崩れていく。だけどそれは、あの時病室で見たものとは違う。熱が、魂か、そうじゃなければ生気とでも呼ぶべきものに満ちあふれた、温かなものだった。
「……私、いつかどこかでこのまま終わってもいいって、そう言ったでしょう」
「ああ、覚えている」
取るに足らないかもしれない、小さな失敗。駆け出しのアイドルには珍しくない、ステージ上での転倒。苦い思い出ではあったけれど、それも紛れなくちとせと過ごした時間の中に刻まれた記憶なのだ。忘れられるはずがない。
そして、ちとせは舞台裏に引き返したときそう言ったのだ。十割が冗談だったのかもしれない。或いはいつも通り、少しだけ本当が含まれていたのかもしれない。
そこにあったものは、諦めだった。本当なら怒って然るべきだったのかもしれないが、残念なことに俺の方も面食らって何も出来なかったことを、覚えている。
「でも、今はすっごく悔しい。ここで終わりたくないって、そう思うの……!」
真実を覆い隠すことなく、ちとせは涙と共にそう言った。
その言葉が聞きたかった。それを見付けてほしかった。あの時、病室で俺が願ったことはそれが全てで、だからこそ初代シンデレラガールを、トップアイドルを相手に戦ってもらいたかったのだ。
そこがきっと、俺が与えられるかもしれない景色だから。そして、それはきっと、自分の人生を生きていたいと願わなければ抱き得ない感情で、人生を懸けるに値する望みだから。
「終わらないさ」
大丈夫だよ、なんて簡単に言えることじゃない。いつもいつでも上手くいって、二十四時間経てば当たり前に明日が来るなんて、誰にも保証できない。俺だって、何か不慮の事故にでも遭って、明日にはいなくなっているのかもしれないのだから。
37Res/55.36 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20