33:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 20:11:48.95 ID:fM9nM/xA0
もしも、奇跡と偶然に何か違いがあるとすればそれは何になるのだろうと思ったことがある。奇跡の全ては必然じゃないし、偶然のどこかに必然が含まれていることだってあり得ない話じゃない。
そうしてちとせが意識を取り戻したことで、会社の内部的にはつつがなくとは行かずとも、興業としては問題なく開催されたLIVEバトルの勝敗は、事前の予想を覆すことなく、十時愛梨の勝利で終わった。
正直なところ、どれだけ勝利を祈っても勝てる気がしなかった。十時さんがステージに立った瞬間に、そっと指先でマイクをなぞった瞬間に、初めにあった言葉のように舞台は彼女の色に染め上げられて、そこから先は忘れろといわれても忘れることの出来ない独擅場だったのだから。
生まれながらのアイドル。十時さんを特集した雑誌に記されたキャッチコピーに、違うところはない。技能だけを見れば、十時さんより上手く歌えるアイドルはいるかもしれない。上手く踊れるアイドルはいるかもしれない、万が一にも、彼女よりも美しいアイドルだっているかもしれない。
だけど、きっとその誰もが十時愛梨にはなり得ない。そして。
敗北こそしたけれど、ちとせのパフォーマンスは今までで最高のものだったと、確信を持って断言できる。そうだ。ちとせにだって代わりはいない。人間としても、アイドルとしても。
「お疲れ、ちとせ。最高のステージだった」
吸血鬼を模した衣装に身を包み、舞台袖へと引き返してきた彼女にスポーツドリンクを手渡しながら、俺は何一つ偽りのない賞賛を口にする。
「あは……ありがと、魔法使いさん。生憎負けちゃったけどね」
「いいんだ……とはならないか」
「ねえ、魔法使いさん」
「なんだ、ちとせ?」
「……最初からこうなるように仕組んでたんでしょ」
ちとせはいつかの意趣返しとばかりに悪戯な笑みを湛えて、そして。
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