24:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 20:02:11.96 ID:fM9nM/xA0
正直、今のちとせの側にいて、俺ができることが何なのかなんて、病室にいる今でも見当がつかない。
ただ、千夜の言葉を聞いたとき、俺は弾かれたように飛び出していた。そうしなければいけないという確信が、思考回路の演算を振り切って、両足を動かしていたのだ。
今の俺に、できること。
考える。このまま朝なんて一生来ないんじゃないかと疑いたくなるような沈黙の中で、ただひたすらに思考の海をかき分けて、記憶の引き出しを、おもちゃ箱でもひっくり返すように乱雑に開け放って、答えを探し続ける。
喉元まででかかっているはずなんだ。全てのことに意味があるなら、俺がまだ涙を流していないことにも、弾かれたようにここを訪れたことにも、全部が全部、意味があるはずなんだ。だから。
祈るように、記憶を一つずつ手繰り寄せる。ちとせと出会った春のこと。満開の桜の下で彼女が浮かべた笑顔のこと。そして。
「なあ、ちとせ」
呼びかける。それに対して返ってくる言葉はない。当たり前だ。
「ちとせは俺を魔法使いって呼んでるけどさ、御伽噺とかって、信じてるのか?」
構わない。ただぶちまけたおもちゃ箱の中からああでもないこうでもないと、そぎ落とすように、答え以外の言葉が全てなくなっていくように、ただ俺は浮かんだことを声に出し続ける。
御伽噺。十時さんが言っていた、例えば王子様のキスで目覚めるような陳腐な物語。子供の頃はそれが本当に会った話なのだと、自分もその一部になれるのだと信じて疑わなくて、大人になるにつれて段々に馬鹿馬鹿しいと吐き捨てて、笑い話の言い換えにされるような、そんな物語だ。
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