23:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 20:00:57.96 ID:fM9nM/xA0
誰かの死に目に立ち会うという経験は何度かあった。
縁起でもない話なのはわかっている。それでも今、死という場所に一番近いちとせを見て、それを思うなというのも難しい。
死、という言葉を聞いたとき、人が考えるのは多分ありったけの苦しみとか痛みとか、そういうものであるはずだ。
初めて誰かの死を見送ったのは、飼っていた猫の時だった。
俺が生まれると同時に両親がペットショップから買ってきたらしいあいつは、家族というより兄弟みたいなもので、記憶にこそないが幼い頃の俺は母親の膝の上を取り合ってあいつと喧嘩していたこともあったらしい。
それほどまでに縁深い猫が死んだとき、俺は確かに涙を流していた。当たり前だ。だってあいつは、種族こそ違っても、俺のたった一人の兄弟だったのだ。
だけどその違いが、何よりも深くて大きい断絶であることもわかっていた。あいつが死の淵に遭った時、そこにどれだけの痛みや苦しみを伴っていたのか、猫の言葉ではわからなかったから。
二度目は、祖父と祖母の時だった。猫ほど一緒に長い時間を過ごしたわけではない。だけど、年末年始やお盆にお彼岸の時は決まって家を訪れて一緒に過ごしていた家族なのだから、その時だって深く悲しんで、一日中泣いていたことを覚えている。
祖父母が死んだときのことは、まだ子供だった俺に配慮してか両親にも医者にも詳しく聞かせてはもらえなかったけれど、最期に苦しんではいなかったらしい。
もっとも、終末医療で大量の痛み止めを必要とするような病に冒されていたのだから、痛く、苦しいはずはないのだろうが――それでもその瞬間は、棺に収められた死に顔は、それこそ今のちとせと変わらない、眠っているように安らかなものだった。
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