黒埼ちとせ「メメント・ウィッシュ」
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10:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 19:47:04.19 ID:fM9nM/xA0
 ちとせの言葉には、いつもどこかに嘘が含まれている。
 別に、彼女を嘘つきだと詰るつもりはない。それでも事実として、彼女は言葉の端々に冗談を交ぜて、まるでそこにある本当を薄めるかのような癖があった。

 俺を見て魅入られている、といったのは、他でもない十時さんを担当しているプロデューサーだった。
 彼は優秀だ。まだ駆け出しに毛が生えた程度の俺なんかより、遙かに。
 それは彼が積み上げてきた功績が、磨き上げた宝石である十時さん自身がそれを証明している。なんなら立場だって上だし肩書きだって俺より上だ。それでも、個人的な感情としては、なんでか気に食わない人だった。
 俺はよく楽観的だといわれるし、自分でもそう思う。今日が良くないことばかりでも、明日にいいことがあればいいなと思って生きているし、なんなら期待を込めて宝くじだってジャンボの時期が訪れる度に買っている。残念なことに当たったことは一度もないが。
 ただ、彼は俺と正反対だった。いつも、最悪が起こることを前提に動いているような、世の中が明日に滅びるかもしれないと思って生きているような、そういう人だ。そんな彼がわざわざ俺を評して、魅入られていると言った、その真意は今でも理解できずにいる。

「ちとせさん、大丈夫なんですか?」
「幸い、今は命に別状はないんだってさ」
「でも、意識が戻らないんですよね」

 そう。十時さんの言葉を首肯して、真っ白な病室に身を横たえたちとせの姿を脳裏に描く。


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