周子「だから、あたしが逢いに往く」
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38:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 20:06:43.15 ID:XnGtX3Tv0
 

 目指すは紗枝が今住み込んでいる御所……ではなく紗枝の実家だ。
 まずは情報収集だ。
 良くも悪くも御所は御所、それなりの警備をしている。
 紗枝にとっては安全で大変よろしいが周子が今から忍び込む分には少々面倒だ。
 まずは紗枝の実家にちょいとお邪魔して見るべきものを探すつもりだ。
 宮仕えの決定に関して通知が来たという話であった、つまり文の一つや二つ残っているだろうと踏んだのだ。
 そうでなくても紗枝はなかなか裕福そうな印象を受けたので、そんな家にはそれなりに蔵書があるに違いない。
 これは忍び込む価値がありそうだ。

 紗枝の気配を辿り行きついた先、なかなかに厳かな造りの木造の門が立ちはだかる。
 しかし周子はそんなものには目もくれず早速忍び込む。
 敷地を跨いだ直後からずらり待ち構えていた各種警備術式すらも壊すことなく難なくすり抜けていった。

 
 紗枝の気配を辿ることでここまでやって来たが、いざ家に入ったらそれは意味をなさない。
 外の道ならば通った場所を特定できるのだが家ともなるとそこいら中に等しく気配が残っている。
 ここから先は手掛かりとなる書物や文を目で見て判断しなければならなかった。
 母屋の脇に回り込み、縁側に沿って見渡して、ついでに面白そうなものは無いかと目を凝らし、そして気になる場所を見つけて忍び込んだ。

 そこはまるで本棚の林
 扉を開けた先にずらりと立ち並ぶそれらは天井近くまで聳え立ち書物がこれでもかと詰め込まれている。
 そんな中にひと際目立つものが一冊。
 見た目は古びて色あせた書でありふれた見た目だったが、今の周子にとっては何よりも目立つ。
 紗枝の気配がどの書よりも強かったのだ。
 おそらく何度も読んだのか、或いはその手に汗握りながら読んだのか、どちらにせよ気にならないはずがなかった。

 勿論、紗枝の気配が強いからと言ってそれが探している情報源だとは限らない。
 しかしなんのあてもなく探すよりは幾分気が楽であった。
 時間はたっぷりあるのだ、誰かが来ようとも姿を隠してまた隙をついて探せばよい、そう考えてのことだった。
 それに単純に紗枝がどんなものを読んできたのかも気になる。
 それら全てが探しているものとは違ったとしてもその後にそれ以外を探せばよいと考えた。

 だが幸か不幸か、本来想定しているものではなかったが、周子は探し当ててしまった。
 あの日紗枝が見つけてしまったそれを、その内容に衝撃を受け悩み苦しんだそれを、周子は今その手に取ってしまったのだ。


「なんやこれ……あぁ、当時の神共か、へったくそな絵やなぁ」


 太古の昔の挿絵に文句を付けつつ読み進めていく。
 神々にと共に未知の敵に立ち向かう人間達。
 その手に槍を持つ者、弓を持つ者、祈りを捧げる者、傷ついた仲間を介抱する者、様々だ。
 その場面の者達では歯が立っていない様子だ。
 無理もないと思いながら周子は頁を捲っていく。
 
 またもや人間達がぞろぞろと並ぶ。
 しかし誰も武器の類は手にしていない。
 それどころかやたらと女ばかりだ。
 そんな者達が未知の敵の元へと集まり、誰か一人を担ぎ上げている。
 
 黒い靄で表現された未知の敵
 それの中へと担ぎ上げられた誰かが誘われていく
 そして
 危機は去り、人々は喜び感謝の祈りを捧げている。

 どうにも気持ちが悪い。
 この動悸は何だ?
 まさか、いや、そんなはずは

 様々な思考が周子の脳内を駆け巡る。
 否定したい、ありえない。
 だがそんな感情とは裏腹に周子の経験則が告げている。
 これは事実なのだと。
 そして大厄災は再び起こる、近いうちに必ずやって来る。
 そしてこの担ぎ上げられた人物は今の時代で当てはめると誰なのか。
 無慈悲にも周子自身がそれ以外の答えを浮かばせない。


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