周子「だから、あたしが逢いに往く」
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37:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 20:03:03.51 ID:XnGtX3Tv0




 田が黄金に色づく頃、暑さも和らぎ風も涼しさを取り戻した。
 日が昇ると時折汗ばむことはあるが、こうして曇天ともなるといずれやって来る肌寒さを予感させる。
 あれから少し経つが紗枝は元気にしているだろうか。
 神社の屋根の上から都を見下ろし頬杖をつく。
 近頃はずっとこうして紗枝のことばかり考えている周子であったが、彼女にしては珍しく今後の行動について思い悩んでいた。

 己の心は分かっている。
 ただそれが初めてであるから戸惑っているだけだ。
 紗枝のような幼い少女でも自ら道を進もうとしているのにこの狐は何をしているのやら……
 いや、自分は人だ。そうあると決めたのだ。
 紗枝がくれた名をかみしめて、人として振舞うと決めたのだ。
 実際に何かを大きく変えるわけではないが、自身の中で己を妖怪だのこの世ならざる者だのと諦観交じりに卑下するのはもうやめたのだ。
 
 それに実は大きく変わったことがある。
 周子はその姿を人型でいるために力を使わなくなっていた。
 つまりは醜狐としての禍々しい姿を四六時中無理矢理人型に留めていたのだが、その必要がなくなっていることにある日を境に気が付いた。
 きっと紗枝に名をもらったからだろう、とそう思う。
 
 その辺の意識については迷いはないのだが、それとこれとは話が別。
 やはり周子は思い悩む。
 それはずばり“大厄災”関連のことだ。

 数百年前のそれの時には何とか人間達は乗り越えてきた。
 周子自身は関与していないので具体的な方法など知らないが、他の国と手を取ってどうにかしたらしい。
 勿論被害は甚大だったが、こうして今も人間達はきちんと繁栄している。きっとその存在が全て滅ぶことはないだろう。
 
 ただ問題は紗枝の身の安全だ。
 どのような職に就くかは知らないが、術に関しては申し訳ないがからっきしだった紗枝のことだ。
 有事の際にも前線に駆り出されることは無いだろうと思えたが……

 “あいつ”が起こすその大厄災に最早前線という概念は無いような気もしてくる。
 一度目覚めればその影響はこの国、いやこの星全体に及ぶのだから。
 そう考えると紗枝とて必ずしも安全でない。
 だが周子としては紗枝が自分で選んだ道ならばそれは尊重してやりたいという気持ちもあった。

「う〜ん……」

 さてどうしたものか。
 いっそ化けて宮仕えにでとも考えたがすぐに却下する。
 志希がいるのだ、うっかりばらしかねない。
 それに周子が守りたいのは紗枝であり、それ以外とは関わる気すらなかった。
 その上状況に応じてその他有象無象の命令に従うなど吐き気がする。

「せや!」

 ならばこっそり紗枝を監視し続けて、危うくなったら颯爽と助けに入ればよいではないか。
 そんな名案が周子に浮かぶ。
 実際に客観的にも名案なのかはさておき、そんな周子の表情と足取りは軽い。
 そうだ、それがいい!
 そうと決まれば早速行動である。
 周子は屋根から宙返りを決めて地上に飛び降りるとそのままの足で都の方へ歩いて行った。


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