39:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 20:09:09.75 ID:XnGtX3Tv0
「誰や!?」
「!」
書庫の扉に立つ一人の老婆の視線が周子の後ろ姿を捉える。
動揺のせいか姿を隠すのを忘れていた周子であったが、今はもうそんなことを気にかけている場合ではない。
老婆と目が合ったその瞬間には既に周子は走り出しその胸倉に掴みかかっていた。
「貴様等……あの子を生贄にするつもりか!!!」
これ以外の結論を出せない自分にもそうだが、それを許した者達にも腹が立つ。
どうか勘違いであってくれ、何なら嘘でも構わない、そんなことありえないと否定しろ!
周子はそう心中で願いながら血走った目で老婆を睨みつけた。
「何が生贄や……無礼者め!」
こんな後ろ向きな願いなどしたくはなかった。
叶うのならばいくらでも無礼者になろう。
だが
「あの子は……紗枝は……崇高なる巫女に選ばれたんや……!その身を挺して我等をお救いになる巫女になりはるんや……!そないな呼び方でその誇りを穢すんはお天道様が許してもこのわ……」
あぁそうか
もういい
十分だ
繋がった
まだ幼く術の才能もまともに見せられなかった紗枝に誰が何の才能を見出したのか。
これを見た紗枝が何故に家族にその悩みと不安をすぐに打ち明けられなかったのか。
何故この時期になって早々に紗枝を宮中に囲おうとしたのか。
全て、全て繋がった。
互いに助け合い補い合うのではなかったのか。
弱いながらも共に手を取り立ち向かうのではなかったのか。
「……ふざけるな」
そんな貴様等に名付けられてあたしは醜い狐になったのか。
そんな貴様等のためにあの子は……紗枝は死ななければならないのか。
「ふざけるなあああああああああああああああ!」
都中に響き渡る咆哮だった。
その音波と衝撃だけで扉は裂け軒は捲れ上がり床は押し潰れ柱が千切れ飛んだ。
当然その咆哮を直近でもろに受けた老婆が無事なはずもなく。
周子の視線は既に御所のある方角を捉えていた。
その手に握られていた血生臭い水風船の如き何かと果てたそれを振り払うとただ真正面に狙いを定め、そして
「紗枝!」
たった一歩の足音が雷の如く鳴り響き
それが自分に聞こえるより前に周子は一直線に飛び出していた。
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