40:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 20:12:57.20 ID:XnGtX3Tv0
晴天の如き平穏を保つはずの御所に霹靂が突き刺さった。
天からではなく地を疾るそれは外壁をぶち抜き点在する屯所を弾き飛ばし回廊を庭ごと抉り取る。
ただ紗枝の元へ一刻も早くたどり着く。
それ以外の事を埒外としながらも紗枝の宿命を押し付けた者共への怒りが溢れ出す。
それだけで周子が眼前の有象無象を踏み潰すには充分であった。
「何者だ!?止ま」
断末魔か、はたまた血肉の破裂音か。
今の周子にとって道中の衛兵共なぞ踏みつけた落ち葉程度にも感じられなかった。
この僅かな時間でこの桁外れの惨状が大規模な施設等の事故でなく侵入者という一個体によるものだと気づけるだけの手練れがどれほどいただろうか。
未だこの混乱に右往左往する者もいる中でこの未曽有の嵐を食い止めようと武器を手に取り果敢にも集う者達。
しかしながら無慈悲にも、数十年の研鑽と経験は数千年の膂力の前に容易く消し炭となる。
かつてこの地で都が成立した頃、今に続く人類史の黎明期、当時はまだ醜狐であったそれがただ己の内から湧き上がる怒りに任せて暴虐の限りを尽くした光景が周子によって今ここに再現されようとしていた。
紗枝に名をもらった。
人間としてこの世に在れと心から純粋なる善意で願う者がいると知った。
魂の根幹までもは変えられずとも、人間らしい姿や生き方でこの世に在ることを許された初めての経験。
醜悪なる狐の姿を無理矢理妖力で抑え隠さずとも人の姿でいられるようになった。
かつてのように怒りを覚え妖気と闘気を撒き散らそうとも人型を保っていられるのはそのせいだった。
単純な出力ならば醜狐の方が強い。それでも周子は今を選ぶ。
醜いその姿を見られたくないだけではない。人間としての己をもって紗枝を救いたいからだ。
現に出力はそれで充分だった。
壁や柱はただ体が進むに任せて圧し折った。
人がいたが紗枝ではないので木っ端の如く吹き飛ばした。
時折刀や槍が見えた気もするが掌で“垂直に”押し砕いた。
紗枝の気配がする場所まであとほんの僅かだ。あと十間程、あと少し、少し……
何度見たかわからない畳部屋を突っ切って障子や襖を叩き壊し最早迎え撃つ人影すら見えなくなり……
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