周子「だから、あたしが逢いに往く」
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18:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:22:53.12 ID:XnGtX3Tv0





 
 その日もよく晴れていた。
 にも関わらず何故に紗枝の表情が浮かないかと言うと、その原因は本日の授業にあった。
 急遽、指導要領が変更されいくつかの科目が前倒しになったのだ。
 座学に関して紗枝は現状ある程度余裕があったのだが、幸か不幸かそのせいで前倒しになったものがもう一つ。
 “術”の修練が始まったのだ。
 
 術には様々種類があれど、どれもこの霞皇国に無くてはならないものであった。
 他国が機械やら電気やらで生活基盤を形作るところをこの国はほとんどのそれに術によって何らかの工夫を施している。
 熱供給にしても施設等整備にしても全てはこの術が関与しており、その点が他国との決定的な違いとなっていた。
 
 大霊脈

 この国に流れる力の源。
 御所を中心に広がり辺境まで広がる目に見えない川がこの地下に流れている。
 紗枝は頬杖をつきつつ、目の前に広がる霊脈入り地図を眺めていた。
 太古の昔からあると言われているが、紗枝からしてみればあまり実感がわかない。
 そんな昔のことは分からないし、何よりその霊脈とやらは目に見えないではないか。

 母のように格好良く術を繰り出す自分を今まで幾度となく妄想してきたが、いざ始まってみると術に関する昔話ばかり。
 座学が嫌いなわけではない。何と言うか、想像と違っていたのだ。
 体育が始まったかと思ったら競技の成り立ちの講義が始まったようなものだ。
 何やら声が聞こえはするが、その言葉は右から左へとすり抜けていった。

「こりゃ!」

「あいた!」

 額に訪れる突然の痛み。
 祖母のでこぴんが紗枝の意識を引き戻した。

「まったく……今は大事な話をしとるんやから、 そないな態度で臨んどったらあきまへん!」

「うぅ……婆や痛い……」

「“婆や”やない、今は“先生”や!」

「は〜い……」

 そう、ここは寺子屋の教室……ではない。紗枝の住む家にある勉強部屋だ。
 当然、生徒は紗枝一人。生徒という言い方も正しくはないかもしれない。

 大多数の平民は近くの寺子屋に割り当てられて集団で一部屋に詰め込まれ授業を受けるのだが、
 一部の家の出身者、要は代々宮仕えしている家のことだ、そこの子供はこうして自らの家で教育を受ける。
 小早川家もその例に漏れず、紗枝は今までの教育の殆どを祖母から受けていた。
 紗枝の祖母、もとい“先生”は教育熱心な人物で、この日も新しい科目を教え始まるということでその鼻息は荒い。
 かつて紗枝の母にそうしてきたように、紗枝に対しても己の威信にかけて立派に育ててみせると張り切っていた。





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