19:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:25:02.93 ID:XnGtX3Tv0
「ええどすか、術を扱うにあたってその歴史を知るんは大切なことなんどす!」
曰く、術はかつて神々から授かりし物
曰く、術は人類としての独り立ちの証
曰く、術は崇高な理念の下に使うべし
なんともお堅く眠たくなる話であった。
歴史と言いながらも先生が話すそれは理念だの尊さだのと精神論の部分にやたらと熱が入っていた。
紗枝としてはあまり馴染みのない概念で頭に上手く入ってこない。
はっきり言ってつまらなかった。
とはいえこんなことは日常茶飯事。このような状況を乗り切るのは慣れたものだ。
先生の声の強弱と身振り手振りを目の端で捉えて要所要所で頷く仕草を混ぜる。
聞いてはいるが意識はそこには向けていない。教本の頁をこっそり捲って面白そうな場所を探していく
……と、見つけた。
今の授業内容に近い中で多少は面白そうな頁だと思い、頷きと板書のふりの仕草を混ぜつつそこを読んでいく。
そこには太古の昔に起こったとされる厄災について記されていた。
天より突如現れた謎の怪異。
この世のあらゆる命が失われ、この星そのものが枯れようという未曾有の危機。
そんな時に神々と人類が互いに手を取り合い、この厄災を見事鎮めてみせたのだという。
イルミネイト王国から輸入された日曜日朝の番組に似ていると思った。
今の紗枝より少し年上くらいの少女たちが主人公で、なんやかんやと最終回が近づくと話の規模が大きくなり、当初民家の外れ程度であった物語の舞台はいつの間にか宇宙になっているのだ。紗枝もこの番組は大好きで録画して何回も見たものだが、まさか似たような話が昔話に出てくるとは思わなかった。神様のような存在から定期的に便利な道具をもらったり力を授かったりして最後には円満にお別れして独り立ちするところもそっくりだ。
実際には昔話の方がかなり悲惨な状況から始まるのだが。
この時神々から授かったのが、これから習うことになる“術”なのだろう。
ちょうど今、紗枝が聞き流している先生の話にもそんな単語が出てきたような気がする。
思いがけず、形としては先生の話を真面目に聞いている状態になっているようだ。
ならばもう少し先に頁を進めてもばれまいと、紗枝はまたもやこっそり教本を捲る。
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