周子「だから、あたしが逢いに往く」
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20:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:27:53.31 ID:XnGtX3Tv0
 

 そこには厄災を鎮めたその後の話が簡潔に書かれていた。
 要は、術をもらった後の人類は神々から独り立ちして当時の最も活躍した一族がこの国を治めるに至ったとのことだった。

 ちなみにその一族は現在にまで続いており、今この国を治めている陛下がそうだ。
 紗枝の祖母は陛下の御前でなくとも話題に出す時にはきちんと敬称を用いるべきだと言っているのだが、街行く人々は陛下を「楓ちゃん」などと呼んでいる。
 
 ちなみに祖父も祖母に隠れて楓ちゃん呼びをしていて個人的に写真集まで作って隠し持っている。
 それ程に親しみやすく、また美しい御方なのだ。
 そんな陛下のご先祖がこのような厄災を戦い抜いたというのは紗枝にはなかなか想像し辛かったが、
 例の朝番組の主人公達も可愛らしく親しみやすい上で謎の煌びやかな術から肉弾戦までこなすのだ。
 もしかすると当時のご先祖様も今の楓ちゃんのような人だったのかもしれない。

 とは言えこの教本には当時の詳細な様子など記されてはいなかった。
 書いてある情報といえばせいぜいがこの英雄もとい戦乙女の総称くらいのものだ。
 読み方は……う……ヴ?……いや、ばる……きゅりあ……とかいうらしい。
 相変わらず片仮名は苦手だ。
 きっと大した情報じゃないとばかりに読み飛ばす。
 そうなるといよいよ何も書いていない。
 謎の怪異の正体も、具体的にどうやってそれを鎮めたのかも、そのようなものは一切合切省かれている。


 ただ、紗枝にはその省かれた部分に心当たりがあった。
 以前、書庫で見つけた“あれ”だ。
 その内容に恐怖と不安を覚え紗枝が神社へと駈け込むきっかけとなったが、
 それは宮仕えをする者全て、つまりはこの小早川家に関係するものだと紗枝にも読み取れたからだ。
 そしてそれに記されていたものとこれらの歴史、全く無関係とは思えなかったのだ。
 

「ええどすか、宮仕えの術者たる者、その身は殿下の御心の下に公の為に尽くす。それこそが使命であり誇りであり……」

 演説にも近い先生の声を受け流しつつ思考を巡らせていく。
 
「紗枝もお母はんのように立派な宮仕えとしてこれから……紗枝?」

「え?あぁ聞いとるよ婆や」

「先生や!まったくもう少ししゃんとせんと!紗枝と同い年の子でも何人か既に宮中にいてはるいう話や、その子ら見習って頑張らんと。そんなんやったらお母はんのようになれまへんえ」

「あんなんと一緒にされても……千年に一度の天才なんやろ?」

「あの薬師の小娘はさておき依田さんとこのお子さんは常識の範囲内や」

「常識の範囲広過ぎやしまへん?」

「お母はんの娘のあんたなら大丈夫や!ほら、続きいくで」

 結局その日の術の授業は昼を挟んで夕方まで続いた。








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