14:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:22:29.48 ID:/ZuzgcCF0
時々、私の家にアイドル好きの友達たちが遊びに来た。
それは私にとって辛い時間だった。
だってその子たちはみんな765プロのファンだったから。
だから遊びに来るたびに天海春香の映像を観たがった。
断る理由を上手く思い付けない私は、どうしても一緒に観ざるを得なかった。
15:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:24:37.27 ID:/ZuzgcCF0
そんな毎日がどれだけ続いただろう。
「その日」は突然やってきた。
いつも通りレッスンのために事務所に行くと、事務員さんが話しかけてきた。
近々開かれるいくつかのオーディションの中にお勧めできそうなものがあった、って。
16:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:26:22.43 ID:/ZuzgcCF0
チャンスだ、と思った。
天海春香のすぐ近くで踊ることができる。
そうなればきっと、誰かが気付いてくれる。
天海春香よりも私の方が実力があるんだって。
17:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:27:40.67 ID:/ZuzgcCF0
オーディションに行くと、たくさんの希望者が集まっていた。
それはそうだ。
なんせ「あの天海春香」のダンサーになれるチャンスなのだから。
集まっていたのは、やはり彼女のファンが大半のようだった。
聞こえてくる会話からそのことはすぐに分かった。
18:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:29:48.96 ID:/ZuzgcCF0
私は他の誰よりも気合を入れてオーディションに臨んだ。
そして、合格した。
当然だ。
気持ちだって、実力だって、私は他の誰にも負けてなかった。
私以外にも何人か合格者は居るけど、その子達にだってもちろん負けてない。
19:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:32:47.70 ID:/ZuzgcCF0
今日は天海さんが見学に来てくださいました。
そう言ったレッスンの先生の隣に立っていたのは、紛れもなく天海春香だった。
何度も画面越しに見た、「トップアイドル」。
20:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:35:03.00 ID:/ZuzgcCF0
レッスンルームの外の椅子にみんなで座って。
彼女が持ってきた手作りのお菓子を食べながら。
みんなの表情に、トップアイドルを相手にするぎこちなさがあったのは初めだけ。
徐々に、いつの間にか、みんな打ち解けていった。
21:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:36:42.77 ID:/ZuzgcCF0
どうしてこの人が。
こんなに普通なのに。
どうしてあんなに売れてるんだ。
私と何が違うんだ。
普通じゃないか。
22:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:38:44.88 ID:/ZuzgcCF0
その日から、レッスンの雰囲気が変わった。
もちろんみんなそれまで通り真剣に取り組んではいたけれど、空気がどこか穏やかになった。
それまでには誰かが失敗して曲が止まるとピリッとした空気になることも多かった。
ため息が聞こえることもあった。
けど今は、みんな笑って、「ドンマイ」なんて声をかけたりして。
23:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:42:49.86 ID:/ZuzgcCF0
それから時々、天海春香はレッスンを見に来た。
そのたびに私は不快な気持ちになった。
それを態度に出さないために余計に体力を使っているように思えて、気が滅入った。
ただやはり彼女は忙しいようで、レッスンへの参加時間も回数もあまり多くなかったことはありがたかった。
私は天海春香が来るたびに、早く帰ってくれることを願いながらレッスンを続けていた。
24:名無しNIPPER[saga]
2020/04/03(金) 19:44:24.03 ID:/ZuzgcCF0
覚えていることもある。
私は完璧に踊れていた。
私以外のみんなも。
天海春香も含めて、一切のミスなく最後までやり通した。
それは覚えている。
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