52:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 23:53:08.18 ID:z07AMiQQO
そうして私たちは、普段はあまり使わない電車に乗って、神奈川県の海を目指した。
心配性な両親に私たちはスマートフォンを持たされていたし、何かあった時のためにと交通ICカードのアプリにもある程度の金額がチャージされていた。だから移動手段の確保には苦労しなかった。
だけど、お父さんとお母さんの優しさをこんな形で消費してしまうことに、私は罪悪感を覚えていた。それと、途中で電車の乗り継ぎがわからなくなってしまって悩む私を尻目に、日菜が気さくに駅員さんに声をかけてあっさり問題を解決したことで、また面白くない気分になっていた。
私だってひとりで解決できたのに、どうして日菜はいつも邪魔するの? ……なんて、罪悪感を胸中の恨み節で塗りつぶしながら、「あっちだって! 行こ、おねーちゃん!」ときらきらした顔で私の手を引く日菜についていった。
そうしてたどり着いた湘南の浜辺。そこで嗅いだ潮の香りと、やけに楽しそうな日菜の顔。それはよく覚えているけれど、その時、それらを嗅ぎ、見て、私自身が何を思っていたのかは覚えていない。
達成感だったような気もするし、また日菜に対する敗北感と劣等感が募った気もするし、夕方にこんな遠くまで来てしまったことに怖くなっていた気もするし、帰ったらお父さんに怒られるんじゃないかという心配があった気もするし、その全部がいっぺんにやってきていた気もする。
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