17:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:45:10.44 ID:z07AMiQQO
午後四時を過ぎたころ、花崎川商店街は活気に満ちていた。
昔ながらの個人商店が並ぶ通りには、夕飯の買い出しだろう主婦や、制服姿のまま買い食いや寄り道に勤しもうという若人たちの姿がたくさん見受けられる。
18:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:45:47.77 ID:z07AMiQQO
その軽快に弾むメロディに乗って、紗夜の行軍は続く。
もう迷うことはないけれど、それでも彼女の胸には小さな悩みの種があった。
19:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:46:18.19 ID:z07AMiQQO
……まぁ、そうは言っても、商店街でエンカウント率アップする人物ならその数は限られてくるわね。
手を繋いで微笑み合いながら歩いている女子高生ふたりとすれ違いながら、紗夜は頭の中に知り合いの顔を浮かべる。
20:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:46:44.79 ID:z07AMiQQO
考えていても仕方ないわね。紗夜は羽沢つぐみを頭の隅に押し込めて、別の人物の対処法を思案する。
北沢さんは純粋だから「これからご飯を食べに行く」とだけ言えばいい。余計なことは聞いてこないだろう。
山吹さんは青葉さんと同じくエアリード能力に長けているタイプだ。それとない雰囲気を匂わせればすぐに察してくれる。
21:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:47:20.27 ID:z07AMiQQO
羽沢つぐみに対しての的確な言い訳は思い浮かびそうになかったけれど、それでも、と紗夜は思う。
確率的に言えば彼女とピンポイントで出会ってしまう可能性は低い。花女と羽丘の下校時間は少しズレているし、生徒会の仕事と風紀委員の仕事でのズレだって生じる。そう、こんなところで、数多の可能性の中から羽沢さんとだけエンカウントしてしまうだなんて、もうそれは奇跡の類の話だ。運命的な出会いだ。今日はラーメンを食べてはいけませんよ、という神のお告げ的な何かだ。それであれば仕方がない、諦めよう。
22:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:48:17.56 ID:z07AMiQQO
八百屋さんや本屋さん、魚屋さんの軒先が連なる通り。そこを抜けて、銀河青果店も通り過ぎて、商店街の南を目指す。
通りがかった電気屋さんの店頭に置かれたスピーカーからはラジオが流れていた。
23:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:48:48.24 ID:z07AMiQQO
やがて目的のラーメン屋が視界に映る。
小さな店構え。
24:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:49:31.69 ID:z07AMiQQO
「こんにちは。珍しいですね、商店街のこの辺りにいるのって」
「え、ええ、そう……ですね……」
25:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:50:20.19 ID:z07AMiQQO
「……なんだか元気がなさそうですけど、大丈夫ですか?」
羽沢つぐみはそんな紗夜を心配そうに見つめる。何か力になれることがあるなら手伝いたいという気持ちになっていた。
26:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:50:57.56 ID:z07AMiQQO
「あれー、つぐちゃんにおねーちゃん!」
あっけらかんとした明るいハスキーボイス。羽沢つぐみの後ろから、ショートカットの髪を弾ませながら歩いてくる氷川日菜の姿があった。
27:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:51:37.29 ID:z07AMiQQO
「実は」乗るしかない、この流れに。機を見るに敏な紗夜は迷わず口を開く。「私もそうなんですよ、羽沢さん」
そうだ、こう言っておけばいい。なにせ私と日菜は双子だ。生まれる前から一緒なのだ。そんなふたりが同じことを思って同じ場所にいる。それなら何もおかしなことはない。いい意味での、destinyの方での運命的でドラマチックなフタゴリズム。情に篤い羽沢さんだ、これを聞けば何も言わずに引くだろうし、日菜だって乗ってくるはずだ。ひとりでラーメンが食べられないのはこの際仕方ない。背に腹は代えられないし、この理論で言えば日菜と私はいわば一心同体の運命共同体だからセーフ……と、紗夜は口に蜜あり腹に剣ありの様相を呈す。
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