1:名無しNIPPER
2020/03/10(火) 01:51:12.57 ID:isiKC6fj0
ボクは飛鳥。二宮飛鳥だ。十四歳なりにアイドルとして活動して、良き友を――麗しき魔王や天才のマッドサイエンティストとでも言おうか。そんな二人をはじめ、今まで――沢山の偶像たちと世界を共有してきた。
「ふぅ……」
魔法瓶にいれたコーヒーを口にしながら、事務所の屋上でため息をつく。雪がチラつく、この鉛色の空の下、今日という特別な日々を一人で迎えていた。
そう。今日は二月三日だ。この日は節分だと多くの人は語るが、僕にとっては豆まきなんかよりも大事なことが成される日だ。
誕生日。誰が呼んだか、十四歳中二病アイドルなどという異名も、名を変えるだろう。
ボクはそんな人生の節目を、プロダクションの屋上で、一人迎えていた。
「少し、胸が苦しくなってきたかな」
十五歳。人間としても、女性としても、大きく変化する時期だ。体の発育は進み、下着も買い替えなければならないだろう。
まったく、人間という生き物は、どうしてこうも変わってばかりいるのだろう。
――当然か。ボクもまた、変わったのだから。
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2:名無しNIPPER
2020/03/10(火) 01:52:59.60 ID:isiKC6fj0
一年と少し前、ボクは地元の静岡県で、富士山の見える中学校への道を歩いていた……いや、少し違うな。ボクはその頃、自らを『私』と呼んでいた。
私、二宮飛鳥は、自分で言っていてなんだが、静かな女子生徒だったと思う。スカートは膝より下の校則で定められた長さで、この亜麻色の髪も腰のあたりまで伸ばしていた。
流行に疎く、友達は少なく、勉強にもスポーツにも熱を見いだせない。ただ、漠然とした日々を送っていた。
「だというのに、今やこんな恰好なのは、笑えるね」
3:名無しNIPPER
2020/03/10(火) 01:54:11.08 ID:isiKC6fj0
男とは、こんなにもカッコいいのか。偶像とは、こんなにも美しいのか。初めてのライブは、私の心にヒビを入れた。その時だったかな、彼に……プロデューサーに出会ったのは。
あのロッカーたちを束ねる、346プロダクションのプロデューサー。ライブが終わった後も会場に残っていたボクを、彼は見つけた。
やっと、見つけてくれたね。カエルラの咲いてJewelでボクが歌う歌詞、そのまんまの意味で、ボクは有象無象の女性の中から見つけてもらい、選ばれたのだ。
ステージを降りて、彼は名刺を差し出した。東京にある、アイドルの事務所。彼は、私だった頃のボクにも、新たな世界を見せてくれたのだ。
4:名無しNIPPER
2020/03/10(火) 01:54:40.08 ID:isiKC6fj0
そして、窮屈な田舎から出ていった。溜めていたお年玉を使って、東京の――346プロダクションへ向かった。
しかし、
「あの時は困ったね」
5:名無しNIPPER
2020/03/10(火) 01:55:11.84 ID:isiKC6fj0
「ここにいたのか」
過去を懐かしんでいたら、君は屋上の扉を開けて来てくれた。その手に、梱包された何かを持って。
それはなんだい? と聞けば、忘れたのかと肩をすかしていた。
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