飛鳥「ボクが私だった頃」
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2:名無しNIPPER
2020/03/10(火) 01:52:59.60 ID:isiKC6fj0
 一年と少し前、ボクは地元の静岡県で、富士山の見える中学校への道を歩いていた……いや、少し違うな。ボクはその頃、自らを『私』と呼んでいた。
 私、二宮飛鳥は、自分で言っていてなんだが、静かな女子生徒だったと思う。スカートは膝より下の校則で定められた長さで、この亜麻色の髪も腰のあたりまで伸ばしていた。
 流行に疎く、友達は少なく、勉強にもスポーツにも熱を見いだせない。ただ、漠然とした日々を送っていた。

「だというのに、今やこんな恰好なのは、笑えるね」
 ダメージファッションを着こなし、常日頃からスカートは短く、エクステは毎日色を変えている。
 それもこれも全て、あの日が変化の始まりだった。
 『私』、二宮飛鳥が、『ボク』二宮飛鳥へと変化を始めたのは、商店街の福引だった。買い物を頼まれたついでに、溜まっていた福引のチケットを貰ったので回してみたら、男性ロックグループのライブ券が当たった。
二名様と記されたそれを、ボクはどうしていいかわからずにいた。私の頃は、引っ込み思案だったから、仕方ないね。
そういう意味では、蘭子に似ているかもしれない。心にある本当の言葉を口に出せなくて、ファンの間で熊本弁だとか笑われている言葉。そんな蘭子に、本当によく似ていた。

 今、ここにいる私は、何かが違う。心の奥底にいる本当の自分と、私は違う。誰に相談しても、思春期だからの一言で済ませられてしまった感情。
 それが解き放たれたのが、引っ込み思案だった私が、勇気を出してアイドルのライブに一人で向かったときだった。

 静岡、所謂田舎で行われるライブだ。やってきたロッカーたちも無名のようで、観客も少ない。空は今日の様に鈍色で、帰り始める観客もいた。

 そういうセカイなのだ。人気にならなければ淘汰されるだけの偶像。でもボクは、そんなロッカーのライブに夢中になっていた。掻き鳴らされるギターやベース、とてもではないが真似できないようなドラム。そして、センターを務める、色鮮やかなエクステを汗と共に振り回す男性ボーカル。どんなに観客がいなくなっても全力だった彼らに、私は感動した。



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