飛鳥「ボクが私だった頃」
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4:名無しNIPPER
2020/03/10(火) 01:54:40.08 ID:isiKC6fj0
 そして、窮屈な田舎から出ていった。溜めていたお年玉を使って、東京の――346プロダクションへ向かった。
 しかし、

「あの時は困ったね」

 誰に言うでもなく呟くと、白い吐息は純白な雪の中に消えていく。あの時のボクも、部外者で子供だからと、追い出されて、雑踏に消えた。
 やれやれと、見慣れない東京の街並みを歩きながら、ボクはダメージファッションに身を包んで、都会を歩いた。沢山の人がいて、様々な出会いがある。だからきっと、あの出会いも必然だったのかもしれない。

 夜へと暗くなる街並みの中、口笛を吹いていた。どこかへ泊まるお金はあっても、ボクは、口笛を吹きながら、ただ歩いた。
 そして夜の公園で、たった一人の口笛ライブをしていたら、来てくれた。あの時の、プロデューサーが。

「やれやれ、口笛の一つも吹けやしないか……。それとも……ここへ、惹かれてきたのかい?」
 再開したプロデューサーは、おそらく、ボクをあの時の二宮飛鳥だと気付いていないだろう。とことんまで変わってやったのだ。理解るわけない。しかし、

「探したよ」
 その一言に、胸の鼓動が早くなる。難しい言葉を口にして誤魔化してけれども、覚えていてくれたのだろうかと、期待を寄せていた。

「アイドルにならないか」
 直球なプロデューサーの言葉に、「君はボクのことを何も知らない」などと、つい癖で口にしていた。
 それでも、プロデューサーはキミも同じだと言ってくれた。

「キミってやつは……もしかして……」
 痛いヤツ。そう喉まで出かかった言葉を飲み込んで、本気でアイドルにしてくれるのかと聞いた。

 その答えは、私ではなく、ボクが待ち望む言葉だった。

「非日常への扉を開けよう」

 その時は誤魔化したけれども、確信していた。扉の先に、ボクが欲しいモノがあると。

 ボクは難しい言葉をひたすらに並べると、プロデューサーの手を取った。アイドルになるために。



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