8: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/03/06(金) 20:59:37.46 ID:hr1ls1V9o
動画が流れる。
画面中央で停めてあるのは、黄色い車。
そしてそこに、人がやってくる。見覚えのある服装、
見覚えしかない顔。
そいつは笑顔でやって来て、ふらっと菓子を差し込んでますます笑顔になった。足取り軽やかなまま、姿は画面からフェードアウトする。
「……」
その数分後、消えた方角から同じ顔したやつがそこに戻ってくる。
「……」
そいつは驚愕して、憤慨して、そうして写真を撮っている。
まさか。いや、しかし。
そいつは、今まさにその画面を見ているじゃないか。
画面が真っ暗になった後、俺は呟いた。
「……俺じゃん」
「話題作りのためっすか?それとも何、ツイッターで人気になりたかった?」
「いや待って、俺知らないんだ」
「うっっっっそくせー!絶対あれでしょ、自演ってやつだ!恥ずかしくないんすか、この歳になってそんなの!」
「待ってほんとに!頼むって酒……」
「平子さん、有り得ねえって!」
「違う……!」
俺じゃ、ないんだ。
本当に記憶にない。あの菓子を買ったことは一度もないし、なんならその前の菓子もだ。米に関しても、最近俺が米の袋を運んだ記憶は全く無いんだ。
そんな男たちのやり取りの間でも、奇妙なくらい美しく輝く黄色い車。確かに黄色は目立つ、だと言ってもそれを目掛けた犯行なんてまず無理だろう。
ナンバーを晒したわけでなし。仮に覚えている人がいたとして、どこでどのように乗られているかなんてそいつが把握しているはずがない。
俺の行動範囲を正確に認知している人間がやる行動だが、マネージャーも知らないし、そもそもこんな動画を撮られたところで俺じゃない。俺にはそんなことをした記憶が全くないからだ。
俺じゃ、ない。
そう言いかけた俺の後頭部に、強い衝撃が走った。鈍器で殴られたかのような鈍い痛みが脳から全身に広がっていく。思わず目を見開き、その場で硬直した。
嘘だろおい、視界が狭くなっていく。こんなの、学生時代にスポーツやってた時だって、無かったぞ。
眼前の怒りに満ちていた相方の顔が驚きに、そして慌てふためく様子に変化していくのを見ながら、俺は意識を手放した。
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