白菊ほたる「傘を弔う」
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12: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:12:54.19 ID:3k7Y9koF0
そうしてわたしたちはよく雨の日に散歩に出かけた。
目的もなく、決められた道を行くわけでもなく、ただ気の向くままにぶらぶらと雨の中を歩いていく。
べつに会話が弾むこともないし、ただ二人並んでぼんやり散歩するだけだったけど、そんなイベントがわたしはなんだか好きだった。
茄子さんの隣で、傘を並べながら歩く。
それだけで不思議と心が浮き立ったのだ。
いつしか雨の日の散歩はわたしにとって特別な時間になっていた。
心地よい雨音や土とアスファルトのざらざらした匂い、水たまりに反射する町の景色……

そうだ!
わたしたちは鏡の世界を冒険していたんだ。
そんな無邪気な子供みたいな閃きを、気づけばわたしは興奮に任せてしゃべっていた。
「……えと……な、なんでもないです」
言った後、思わず恥ずかしくなって黙ったわたしを、茄子さんは真面目に見つめてこう答えた。

「そう、ここは鏡の世界なんですよ。ほたるちゃんの言う通りです」

その時わたしは、なんだかからかわれたような気がして素っ気ない返事をしてしまった。
でも今なら分かる。
茄子さんは別にふざけてたわけじゃなかった。

わたしたちはきっと同じ世界では生きられない二人だった。
だから、鏡のあちら側とこちら側からお互いを見つめることしかできなかったんだ。

……そんなおとぎ話を、悲劇だと疑いもせず決めつけていたのはたぶん、わたしの方。


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