3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/02/13(木) 01:30:46.29 ID:YwNItfWC0
「それで、何か私に用事?」
平静を装って、背後のプロデューサーに声だけ飛ばす。
対する彼はと言うと、当然であるかのように私の隣へと腰かけて「んーん。用事らしい用事はないんだけど」とけろりとしていた。
「じゃあなに? 私にちょっかいかけるためだけに来たってわけ?」
「いや、たまには自販機でジュースでも買おうと思って来てみたら、あまりにもお寛ぎの方がいたので」
「それはもういいでしょ。終わったことなんだから」
「あはは。でも、バカにしてるわけじゃなくて、ほら。うちの事務所であれだけリラックスしてもらえるっていうのは、こっちとしては結構嬉しかったりするんだよ」
「……なんで?」
「仕事が辛かったり、嫌だったりしたら、事務所になんてできるだけいたくないだろうからね」
「あー。……でも、それでプロデューサーが嬉しいのはよくわかんないんだけど」
「そりゃあ、俺はアイドル渋谷凛のプロデューサーであり、ファン第一号だからね。自分の担当してる子が十全にパフォーマンスを行える環境にいられるように努めなきゃいけないし、自分が最強だと思ってる子が伸び伸びと活動してるのを見るのは純粋に楽しい」
「そういうものかな」
「そういうものなの。……にしてもさっきのあれは気を抜きすぎだと思うけど」
「もう長いこと気も間も抜けてるどっかの誰かと一緒に仕事してきたから、うつっちゃったんじゃないかな」
「良い感じのこと言ったつもりだったのに酷い言われよう」
「ちょっとカッコつけてるの、わかったからね」
「そういうもんか」
「そういうものだよ」
ばかなやりとりをひとしきり終えて、はぁと息を吐く。
ぐでっとしているところは既にみられてしまったのだから、もはや取り繕っても仕方がないので、再びは私はぐでっとした。
そうして、先程取り落とした雑誌を拾い上げ、手元に寄せる。
ぱらぱらと捲りながら、隣の男へ「脅かすからどこまで読んでたかわかんなくなった」と苦情を言うのも忘れない。
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