2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/02/13(木) 01:29:26.03 ID:YwNItfWC0
〇
所属している芸能事務所の休憩室で、私は人目がないことをいいことに、だらりと机に覆いかぶさるように突っ伏しながら、バレンタイン特集と題された雑誌のチョコレートの情報を眺めていた。
机上に立てた雑誌の上を、右から左へ視線を移動させる。
ひとしきり眺め終われば、雑誌を支えている手の親指に力を込めて、ページをふわりと泳がせた。
もちろんそれでは綺麗にページは捲れない。
けれども、私は態勢を変えぬまま、ふうっと息を吹きかけることで横着にページを捲るのだった。
その瞬間、背後から大型の犬が威嚇するような低く鋭い声が私を貫いた。
たまらず私は雑誌を取り落とし、椅子から転げ落ちそうになった。
しかし、結果的には椅子から落ちることはなく、腕を何者かに支えられる形で踏み止まったらしい。
振り返れば、そこにいたのは。
「…………プロデューサー」
にやにやとした笑みを顔面に貼りつけて、私の顔を覗き込む男がそこにいた。
この男こそ、私を芸能界へ引き込みアイドルにした男であり、それから現在に至るまで私のプロデュースを担当している、プロデューサーである。
何するの、という抗議の念を込めて視線を送るも、果たして効いているのかどうか。
にやにや顔をやめないあたり、まるで効いていないだろう。
「誰もいないにしても、ちょっと気ぃ抜きすぎじゃない?」
「……もしかして、ずっと見てた?」
「ふーっ、ってページを捲るの、かわいかった」
最悪だ。
よりによって、一番面倒な相手に恥ずかしいところを見られてしまった。
紅潮していく頬を隠すように俯いて、髪を落とす。
こういうときは、自身の髪が長いことを便利に思った。
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