渋谷凛「テレフォンパンチ」
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4: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/02/13(木) 01:32:09.32 ID:YwNItfWC0

「そういえば、何読んでたの?」

「これ? これは普通の情報誌だよ。この時期にありがちな……ほら、バレンタイン特集」

「へぇ。チョコレートの特集が組まれてるのか」

「そうそう。こういうの見て、今のうちから目星つけたり、買いに行ったりしないとでさ、結構大変なんだよね」

「凛からもらえたら、大抵の人間はなんだって喜びそうなもんだけどなぁ」

「んー、と。そういうのじゃなくてさ。お仕事で偉い人とか、スポンサーさんとかに顔を合わせることも最近増えたでしょ? そういうときに渡せたら、強いかな、って」

「……確かに、強いな」

「でしょ」

「凛も成長したなぁ」

「これはたぶん、プロデューサーの真似みたいなものだけどね」

「俺の真似?」

「うん。だってプロデューサー、めちゃくちゃ考えて、調べて手土産用意してるから。センスは正直、普通だけど」

「一言多いのは照れ隠し?」


ああ言えばこう言う、を地で行くこの男を弁舌で負かすのは困難を極める。

それをアイドルとなってからこれまでで嫌と言うほど知っている私は、対抗するのをやめて「はいはい」と流す。

流せばそれ以上は追撃は来ないし、こちらが反撃する余地もしっかりと残すので、彼との軽口の応酬は不快ではない。

どころか、このどうしようもない時間を温かく感じている自分がいた。


「しかし、担当アイドルの水面下での努力を知って、頑張ってるね、偉いね、で終わったらプロデューサー失格なので」


突然、彼はそう前置いて、机上の雑誌を手に取り先程のチョコレート特集を開く。

さて、何を言い出すやら、と動向を見守っている私をよそに椅子から立ち上がり、大仰に二歩踏み出した。

そして、手に持ったままの開かれた雑誌を、いっそう強く開いて、私に見せつけるようにする。


「買いに行こう。チョコ。今から」


説明不足が過ぎる。

そう思わないでもないが、今に始まったことでもない。

道中聞けばいいか、と半ば諦めの境地で私も立ち上がる。

そうしたところ、意外にも彼から事細かな説明があった。

曰く、アイドルとして活動するための出費であるならば、私だけに自腹を切らせるわけにいかない。

とのことで、どうやら協力してくれるらしかった。

来るホワイトデーでの収穫については、山分けで、とも言っていたけれど。

気も、間も抜けているくせに、こういうところは抜け目がない。



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