96: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:24:01.31 ID:ldlfMP+C0
25.5/27
覚悟は決まった。あとはやるべきことをやるだけだ。
物がまた増えてきた自室で、私は1人誓いを立てる。お嬢さまの戯れに従い振り回されてここまできたが、この誓いだけは自分の胸の内から湧き上がったものだ。
舞台の上だけでいい。僕としてではなく、お嬢さまに相応しい私になれる瞬間があるというのなら。
たとえ1人になろうとも、輝いてみせよう。それを証明しなくては。
……そう意気込んでみても、私は世界が綺麗になどできていないことを知っている。
心の炎に従おうと熱くなっている私と、しのび寄る孤独の闇に冷めていく私。今の私は大きく揺れている。穏やかに過ごせればそれでよかった日々は、遠い昔のようだ。
これも全て、あいつのせいだ。そして……あいつのおかげだ。
今の自分をあいつに出会う前の私が見たらどう思うだろう。とても同一人物には思わないかもしれない。
それだけ、夢を見なくなった私に心地よい夢を見せてくれている。このままお嬢さまと2人で、この夢が覚めなければいいのに。
いつか終わりは来るものだ。いつ来るかもわからない。その時までに、少しでも失わずにいられるよう、どうにか何かに残せないものだろうか。
お嬢さまの綺麗なお姿、声、温もり、そして思い出。この胸にだけしまい込むには足りなさすぎる。いなくなってしまった後のことなど考えたくない。考えたくはないが、世界がそういう風にできているのなら、どうしようもないではないか。
せめて何か、お嬢さまに気付かれないよう、お嬢さまのことを少しでも残しておけるような、何かはないか。
こんなことを目論んでいる時点で不敬であり、不吉なのはわかっている。それでも……冷えていく心が温もりを求めて、何かにすがりたがっている。
物の増えてきた自室を見回す。不細工な人形では癒し切れない闇に染まりかけながら、私はあるものを思い出す。
それは以前、あいつと出会う前からお嬢さまに押し付けられていたものだった。
111Res/266.62 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20