白雪千夜「私の魔法使い」
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95:25/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:23:05.31 ID:ldlfMP+C0
「……。もう少し、言い方は……なかったのですか?」

「いいんだよ! ここで格好がつく人間だったら、1人で老け込んだりしてないさ」

 抱き寄せるのをやめ、千夜の顔が見えるように胸元からゆっくりと離した。

 目は赤くなっていたが潤んではいない。哀しみの涙に濡れてしまえば、せっかく灯った炎も消えてしまいそうな、そんなか細さを千夜はプロデューサーに隠そうとはしなかった。

「やりたいようにやればいい。ちとせが心配なら、そばにいてやっていい。ちとせに届けたい想いがあるなら、ステージの上で表現してやれ。ちとせもそれを……望んでるから」

 千夜が千夜らしくあることが出来れば、ちとせの願いは果たされる。

 太陽のようだという千夜を知るのはちとせだけだ。次のLIVEでそれを引き出せるかは、わからない。ちとせあっての自分、という意識が変わらないままではそれも難しい。

 千夜は『Velvet Rose』としての出場に反対していた。ちとせがいなければ、たとえ2人のための楽曲で舞台に上がろうとその名は語りたくないのだろう。

 2人で築いてきたものなら、1人でも背負えるはずだ。ちとせが欠けて名乗れないようでは、自身をちとせの添え物のように思っているということになる。

「……お嬢さまのためにも、私が1人で……舞台の主役として立たなければ、いけないのですね?」

 大きな舞台に千夜が1人で臨むのは初めてとなる。ちとせの添え物……脇役で居続けようとしたままでは、主役のいないステージではLIVEを満足にこなしきれない。

 ちとせが隣で、あるいは観客席からでもいい。ちとせに千夜らしく輝く瞬間を見届けてもらうために。そして千夜が千夜らしくあれるように。

 プロデューサーが2人に対して望むのは、それだけだ。

「何を今さら! 俺にとって最初から君は、誰とも比べられない、誰のおまけでもないたった1人のアイドルだよ。ちとせと一緒じゃなくたって、俺は白雪千夜のファン1号なんだから」

「……。ファンに応援されてしまっては、応えるのがアイドルの務め。……そういうことですか」

「わかってるじゃないか。ちとせが早く同じところに帰ってきたくなるような、そんな凄いLIVEをみせてやってくれ。安心しろ、俺もずっと後ろについてる……だから」

 ちとせが望んでいることは、言葉にしなくても千夜にはわかっているはずだ。

 1人でも輝けるところを見せれば、ちとせの体調が良くなるわけじゃない。

 しかし誰よりも千夜を案じ、自分がいなくなった後の千夜をプロデューサーに託してまで、ちとせ自身が千夜に望んできたものはたった1つ。

「千夜の……輝き、本番でちとせに届けられそうか?」

「やってみます。私のファンも、そう望んでくれるから。……ばーか」

 僕ちゃんではない、太陽のように輝いていた少女の笑顔を、取り戻せるように。





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