白雪千夜「私の魔法使い」
1- 20
94:25/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:21:54.45 ID:ldlfMP+C0
「なのにお前は、私に消えない炎を灯した。お嬢さまが主役でそれを支えるのが私の人生……そんな物語でよかったはずなのに。お前は私に、お嬢さまに! 心が燃え盛るような新しい物語をくれた……!」

 プロデューサーの胸元に手を付き、そのまま頭も埋もれさせていく千夜。悲鳴にも似た叫びがプロデューサーの芯まで穿っていく。

「これからだっていうのに! 私に生きる意味をくれた人に、私は何もしてやれない……。どうして私の周りからは、大切なものが燃え尽きていってしまうんだ……!」

 苦しくならないよう、優しく千夜の肩を抱き寄せる。その程度では千夜からこぼれだした感情は止まらない。

「もう何も失いたくない……。失うくらいなら、最初から何もいらなかった。でも、もう戻れない……! 温かさを知ってしまったから。私が……自由に、私らしくあれそうな場所まで、導いて……くれたから!」

 ちとせから託された願いは、叶おうとしていた。しかしそれを叶えるために必要な最後のピースは、ちとせ自身が千夜を見届けることに他ならない。

 今ここでちとせがいなくなれば、変わりかけている最中の千夜は独りでも歩いていけるだろうか。ちとせの代わりになれないことはプロデューサーもわかっている。

「どうしたらいい……? あの方がいない世界で、この物語を続けたくない……続けられない。でもここで手放してしまったら、私に温もりをくれる人は本当に……誰もいなくなってしまう」

 ちとせがいなくなってしまえば、千夜は主人を失った従者として、ファンも世間も見ることだろう。その目で見られ続けることに千夜は、きっと耐えられない。

今のままでは自分自身すら主人の影を追い続けてしまい、取り戻せないもので常に心を支配されてしまう。失くした痛みが身に染みている千夜には酷なはずだ。

 孤独の闇を知る少女に、下手な嘘では夢を見せてなどやれない。

「会いに行くよ」

 震える肩を抱き寄せる手に力を込めて、プロデューサーは続ける。

「たとえ千夜がアイドルを辞めることになっても、また……独りになったとしても。絶対に会いに行ってやる。約束だ」

「…………」

「独りになんてさせてやらないから。俺は魔法使いだぞ? それぐらい出来なくて何が、魔法使いだ」

「…………」

「いいか、君の心に炎を灯した犯人は俺だ。俺なんだろう? 責任は最後まで負わなきゃいけない……千夜だったら、そう思うはずだ。違うか?」

「…………」

「だから、その……えっと、千夜? そろそろ……反応が、欲しい」



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
111Res/266.62 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice