白雪千夜「私の魔法使い」
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93:25/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:21:01.45 ID:ldlfMP+C0
「……千夜は、元気か? 疲れてるんじゃないか」

 ちとせのことに触れないのも不自然だが、実際千夜も心身ともに参っているはずだ。

「お前の方こそ……。お嬢さまも、心配しておられた」

「ちとせが俺を……」

「私たちのことで老け込んでいるだろうからと。それで、様子を見に……来てみたらこれだ」

 事務所へ早くに到着したのは千夜の意志でもあるらしい。千夜にまで心配をかけさせていては世話がない。

「そのために早く来てくれたのか?」

「お嬢さまには私がいる。いざとなれば黒埼のおじさまやお医者様だって……。それに比べてお前はどうだ」

「千夜が、いるな。今だけは」

「……ちひろさんもいるでしょうに。私はお前の世話まで焼いてる暇はない」

「それなのに、来てくれたんだろう? ありがとう」

 つんけんしつつも、余裕のない中わざわざ気遣って来てくれた千夜に心を打たれ、ついプロデューサーはそんな健気な少女の頭を撫でていた。

 こんなことで慰めになるとは思っていない、むしろ千夜なら振りほどいて文句を言ってくるところだ。だが千夜は何も言わず、黙ってされるがままになっている。

 手袋の上からとはいえ手を重ね合った時を数えれば、千夜にプロデューサー自らが触れたのは2度目である。状況も状況だけに、そこに付け込んでいると思われてはいないだろうか。

 急に気後れしてきたプロデューサーの手はぎこちなくなり、やがて撫でるのを取りやめる。それを見計らったように千夜は溜息を吐いた。

「はぁ。言ってませんでしたね。私は触れられるのが嫌いです」

「うっ……やっぱりそうだったのか、ごめん」

「まったくだ。私に触れていいのはお嬢さまただ1人、と……そう思っていた」

 下を向いていた千夜は顔を上げると、真っ直ぐにプロデューサーを捉えた。

「私に温もりを与えてくれるのは、お嬢さまだけ。そう思っていたのに」

「千夜……?」

「……思っていたのに!」

 抑えきれなくなったのか、千夜は顔を強張らせながら声を荒げていた。



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