白雪千夜「私の魔法使い」
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92: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:20:03.90 ID:ldlfMP+C0
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 スケジューリングされていた仕事をなんとかこなしきったちとせに、内々でアイドル活動の休止が決定した。

 学校には通えているようだが、かかりつけの医者からもドクターストップをついに言い渡されたようだ。

 そんなちとせからは千夜を支えてやるようにと強く頼まれている。これはちとせと約束した言うことを聞く内ではないが、頼まれずとも全力でサポートするつもりだ。

 それぐらい、今の千夜は見ていられなかった。出会った頃のよそよそしさで溢れていた千夜の方がまだ近付きやすいとさえ感じる。

 どう励ましてやればいいかわからない。声を掛けたところで、気休めはいらないと突っぱねられるかもしれない。

 ちとせの件で白紙が続く手帳をどう埋めていくか、それだけでも千夜とは意思疎通を図りたかった。

 デスクを立ち、座る者のいなくなった特等席に物寂しさを覚えながら、千夜と深く話し合う時のように空いているソファへ腰を下ろす。

 千夜はちとせのため、事務所に留まる時間を最低限に抑えている。

 ここで待っていても千夜とは挨拶だけ交わし、そそくさとレッスンへ行ってしまう。携帯電話を使うこともためらわれた。大事な話をするなら、千夜にはやはり隣で聞いてもらいたいからだ。

 如何ともしがたくしていると、まだレッスンの始まるまで遠い時分から千夜がやってきた。当たり前のように感じていたことだったはずが、今はひどく懐かしい。

「……どうも」

「うん。おはよう」

 元々用があったのかはわからないが、デスクではなくソファに座っていたプロデューサーを見て逡巡した後、千夜は黒いコートを衣紋掛けにやってから隣に座ることにしたようだ。

「……」

「……」

 沈黙が続く。ついこの間までは会話がなくとも居心地は悪くなかったというのに、どうしてこうも変わってしまったのか。理由がはっきりしているからこそ、やるせなさが募っていく。

「あの……」

「あのさ……あっ」

 それは千夜の方も感じていたようで、思わず隣を振り向くと目が合った。

 千夜はしばし固まってからそっと視線を逸らし、その先に主のいない特等席が映ったのか下へ下へと首が傾いていく。主に使われるのを待つクッションが物寂しそうに横たわっていた。

 俯いた千夜にプロデューサーはなんとか言葉を絞り出す。



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