白雪千夜「私の魔法使い」
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97: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:25:03.56 ID:ldlfMP+C0
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「緊張してる? それとも……ふふ。女の子の部屋に入ってくるなんて、魔法使いさんは悪い人だね」

「ちとせが呼んだくせに……」

 4度目となる黒埼家への来訪は、千夜の送り迎えをする名目のまま事務所の車でちとせを会場まで送り届けるために、迎えに行った時のことだった。

 出来る限り近くで千夜のステージを見守りたい、そんなちとせの付き添いとして迎えに上がったものの、大事な話があるからと家の中まで通されたのだ。

 千夜は既に会場入りしており、出番まで待機している手筈になっている。

 ちとせをギリギリまで家で休ませ、待ち時間を負担させないよう千夜に頼まれていたのだ。あの千夜からちとせを任されたのは、大義といってもいいだろう。

 しかしあろうことか、ちとせはどうしても自室で話したいと言い出した。千夜が不在で内緒話もないだろうが、気は引けながらも招かれるままちとせの部屋に入れてもらう。

 赤を基調として彩られ、格式高そうな調度品が所々見受けられる空間は女の子というよりも、吸血鬼の姫君が住まうに相応しいとプロデューサーは感じた。

「ねぇ、それよりもっとこっちに来て。そんなところじゃ聞こえないよ?」

 自分の座っているベッドの隣へ来いと、身支度が済んでいるちとせが手招きしている。

 声は届いているだろうに、だがここまで来ておいて遠慮することもない。素直にちとせの隣へ座らせてもらうことにする。ベッドはとてもふかふかで寝心地は良さそうだ。

「これでいい? ……やっぱり落ち着かないなあ」

「あは♪ 魔法使いさん可愛い」

「仕方ないだろう。それで、どうしたの。吸血鬼のお姫様が魔法使いと密会したくなった?」

 天下の往来よりかは、密会する場所としてだいぶ様になっただろう。

「そんなところ。時間ないし、あの子を待たせちゃ悪いから単刀直入に言うね」

 ちとせはプロデューサーの顔を覗き込むように見つめている。隣に座っているのが千夜ならば、せいぜい横目の端で様子を探りながらたまにちらっと振り向いて確認する、その程度なのでなんだか新鮮だった。

「あの子のこと、好き?」

「……千夜のことか?」

「他に誰かいる?」

「そりゃそうだけど……」

「私は好きだよ。一番大切な宝物だもん。あ、二番目はあの子が贈ってくれたこの子ね」

 首に飾られたムーンストーンのネックレスを、ちとせは柔らかい手付きで胸元に押さえる。

「女の子が大好きなあなたを見倣って、私もあの子のことをあなたにも、みんなにも好きになって欲しい。ずっと大切にしまっていたら後悔しただろうな」

「……そうだな」



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